第73話【自宅前戦争攻勢】
その後、海賀クループ系列の病院に搬送。
中でも酷い怪我をしていた雨崎さんを含む、数名の物を改造したらしいんだ。
何が恐ろしいかって、これらの魔物の部位って、部位になっても意識があって、基本的に、人間を敵視、その移植された人の思考思念を操るまでいかないけど、人が正しく行動するのを邪魔をするみたいな働きをするらしい。
だから雨崎さんの場合は、あの時、魔王城に来て僕らと対峙していた時、彼女にはもっと他の選択肢もあった筈なんだけど、当時は自分が死ぬか、他者を殺すか、くらいしかその時は思いつかなかったって言ってた。
「なんかネガティブでしたね、滅んで当たり前的な」
って言ってたからね。
そんな雨崎さんに敵の魔の手が走る。
彼女の影の中から、得体のしれない、僕らの知るモンスターではないから、きっと異世界からの者らしい攻撃が入る。
完全な魔物。
誰かに混ざっていたのか、それとも、隠されていたのか、普通の人の動きでは追えないそんな攻撃が、雨崎さん本人の影からやって来る。
影から伸びた長い腕が、その先に光る真黒い爪が、雨崎さんに向かって走る。
あまりの距離の近さと、その速度に彼女は対応できないと思いきや、その、黒い手を引き裂く爪、闇の様な魔物が霧散して、自分が危機であった事に気が付く雨崎さんは、自分を守ってくれた本体に、と言うか、自分に寄り添うしなやかな体に、雨崎さんは笑顔を綻ばせて、
「あ、モカちゃん!」
って言って、軽く頭を撫でた。
モカちゃんも嬉しそう。
それは、彼女に移植されていた魔物。
よくわかんないけど、大きな猫。
いや、大きな猫は虎とかライオンとか、こじんまりしていて、チーターかピューマになると思うんだけど、でも、猫なんだよね、このモカちゃん。
本当にデカイ猫、しかも四肢がそのまま外骨格系の綺麗な黒き刃。で尻尾が7本くらいあって、それぞれその先端にトゲがあって、麻痺毒とか持ってるって話。
クアールっていう魔物らしくて、僕はまだ見たことがないけど、一応ダンジョンにもいるらしいんだけど、ダンジョンにいるのはここまで凶悪なモンスターではなくて、普通に獣系のモンスター。
雨崎さんの連れているモカは形こそ同じだけど、幻獣っていうのかな、妖精とか、精霊の類に近いらしいんだ。
僕がかつて、彼女からこのクアールの部位を切り離した時に、彼女に悪影響を与える部位を、なぜか凍結状態にしていた見たいで、この辺は僕に自覚はなくて、アキシオンさんがやっていた事らしいんだけど、この魔物にされた部位は、途方も無く、この世界を恨んでいたらしくて、その憎しみを拾って、解体したら、割といい奴である事がわかって、何より、そんな感情状態で尚、ここまで動けていた雨崎さんの状態が、ちょっと異常だったんだ。
他の子、つまり彼女と一緒に事故にあった強化メンバーの子達は動けてなかったから、唯一動けていた彼女を、海賀グループは、嫌味みたいに僕に当てつけて来た訳だけど、それは、雨崎さんの意思を拾って動いていた訳で、つまりは彼女の四肢の部位になっても、意識を残して、彼女の強い仲間を助けたい意識に沿って動いていたらしいんだ。
もしかして、それは無意識の中の意識だったかもしれないけど、それでも、解体して、破棄してしまうのはどうかと思って、雪華さんを初め、以前の様に八瀬さんや、そして何より北海道ダンジョンに協力してもらって、モカは以前の姿を取り戻した。
まるで、葉山と茉薙みたいに、二つを分けて二人になった見たいな感じかな。