第105【できれば切らない方向で】
今、この時点において、ラミアさんが、モンスターにとって、人が、ダンジョンウォーカーが大切なんだって、僕にはラミアさんと桃井って人がどんな関係なのか想像もつかないけど、多分、そう考えるのが普通なんだと思う。
そこでだ。
「お腹を切り開く以外に、桃井って人を取り出せる方法ってないかな?」
幾ら何でも、彼女がたとえエルダーなモンスターでも、お腹を切って取り出すってのは無いよ、無い無い。
「一番手っ取り早いじゃあ無いですかね、サクッとやってしまいましょう秋さん」
血も涙もない一言だよ。鬼か悪魔か角田さんだよ。
「死んじゃうかも、じゃん」
「だって、モンスターですよ、それにそうしろってこの蛇女も言っていますし」
いつの間にか、身を起こしてこちらを興味深く見ているラミアさんは、そんな血も涙もない角田さんの二言目にうなずいていた。
いやいや、そんな、他に方法はないのかな、
って思い当たる節も無く膠着している僕に、「はい!」って手をあげて春夏さん。挙手はいらないよ、春夏さんどうぞ。
「いつも、飲みすぎたお父さんが、お母さんにしてもらっている事なんだけど」
と話し出した。「お父さん、お酒弱いんだけど、忘年会シーズンとかになると、お呼ばれで結構飲まされてしまうのだけど…」ときちんとした事例を挙げて、説明してくれたんだけど、そこから割愛させていただた結論。
つまり、喉の奥に手を突っ込んで、刺激して胃の内容物を吐き出させるって事らしい。
自分でやらないで、春夏さんおお母さんがやるのは、自分で喉の奥に手を突っ込むのが怖いからだって、へー、あれ? 春夏さんのお父さんって確か北海道警察の偉い人じゃなかたっけ? へー、そうなんだ、奥さんにしてもらうんだ。怖いんだ。
特に、この時、僕は春夏さんのお父さんに対して何を思っていた訳でもなくて、へー、くらいの気持ちで言ってしまったんだけどさ、春夏さんとしては、お父さんというか身内の恥を暴露してしまったって感覚なのかな?
それに気が付いて、ちょっと春夏さんはお父さんを庇うように、「お母さん、お父さんを吐かせるの上手なんだよ」
ってよく分からないフォローをしていた。
それでもって、出来るのそんな事?
すると、シリカさんが、
「可能です、未だ桃井はこのラミアの胃の中です」
と空間把握の能力の一部の能力を使って、レントゲンか胃カメラで患部を見て判断する医者みたい言った。「胃下垂気味ですね」なんて付け加えてたりした。
僕らはその後、一生懸命に喉の奥に手を入れて、吐いてごらんよ、を自分の体と行動でラミアさんに伝えようと試みるも、全く伝わらない。
それどころか、また自分のお腹を指差して、「切って!」みたいに言ってくる。
「ああ、なるほどそうかわかりました」
ってシリカさんが何かを思い出したかのように、パンと手を叩いてから、
「モンスターは自傷行動ができませんから、自分を傷つけられないデス」
って言い出す。
「そうなんですか?」
シリカさんを信用しないわけじゃあないけど、一応は角田さんに聞いてみる。
「初めて聞きましたよ、でも、そう考えると全てに納得が行きますよね、腹を割くのも、自分でやればいいんですから」
なるほどね、喉の奥に手を突っ込むのも、やった事がないなら、確かに自傷行為って言えばそうだよね。
ってことは、ここにいる誰かが、ラミアさんの喉の奥に手を突っ込めばいいんだ。