第60話【葉山静流、血意の双刃】
その姿が剣だと言い返せるけど、こうして怒ってる女子だと何も言い返せないじゃないか。
黙って聞いている僕なんだけどさ、でも、まあ、思うのはさ、間に合って良かったってお事で、そのペナルティがアキシオンさん女性型に激怒されるくらいなら、まあいいか、って思えるから、ここはひたすら怒られておく事にする。
そのアキシオンさんもちょっと口調というか怒りが治ったみたいで、
「自分が死ぬような目にあっても、過去に囚われ、それでも他人の為に動く葉山静流は助けたいんですね」
って言うから、
「当たり前だよ」
と言ったら、そこで、大きくため息を付くアキシオンさんだった。なんだろう、すごく人間臭く見えるなあ、こう言った仕草。
「以前だって、かなりギリギリで助けたじゃないですか!」
怒鳴られたよ。
ああ、かつての、葉山とのダンジョンでの頂上決戦のことを言ってるんだな、って思うから、あれは僕一人の力じゃどうにもならなかったから、僕として、葉山を助けたって自覚は薄い、寧ろダンジョンそのものである春夏さんと、葉山を助けるべくその技術を確立した雪華さんに感謝を禁じ得ないよ。
だから、今回は、自分の体を傷つけるような真似をしておきながら、それでも間に合った感じがあるんだよ。
だから、ここは言い返すよ、だって取り返しのつかない事になる所だったもん。
「葉山に人殺しなんてさせるわけにいかないだろ!」
葉山はさ、いいやつなんだよ。
仲間思いでさ、不器用な薫子さんとかの親友でさ、雪華さんとだって仲のいいやら悪いやらでも、茉薙の事も気にかけてて、それにさ、女子からも全く相手にされてない男子にだって気を使ってくれる良いやつなんだよ。
今はちょっと怒りの塊になってるだけで、やって良いことと悪いことの判断ができない人間じゃないんだ。
だから怒りに任せて感情のままに、こんな大勢の前でまして全国放送されてる中で人殺しなんてしていい訳がない。
「それはオーナーの主観ですよ、葉山静流という人間を、そうあって欲しいと言うわがままな押し付けに過ぎませんよ」
「そうしていたのも、そう見せたがってたのも、葉山じゃん」
だから、そうありたいって、そうしていたいっていたのも葉山自身なんだよ。
だからわかる。
これは単純に怒りだけでもない。
葉山の中に染み込んでいる、かつての悲劇や彼女自身を包むようにしてた絶望感は、決して、その原因となっている、彼女をその立場に追いやった人たちの排除では決してなかった筈なんだ。
なぜなら、葉山はあの時、逃げ回ってたから、北海道まで来て、ダンジョンウォーカーの制度を利用して、普通に中学生をしていた。
あの時、今みたいに、海賀の会長を亡き者にしようとすれば、多分、できた。
でも、葉山はそうはしていない。
だからこれが答えなんだよ。
この怒りは、彼女自身からやって来るものではないんだ。
葉山は、これからの事、そしてこれ以上、自分と同じ犠牲者を生み出さない為の方法なんだ。
確かに悲壮な思いも未だ抱えてる。
でも、葉山なりに未来を見据えている結論が、この、海賀会長の暗殺なんだよ。
誰よりも、理解しているんだ。
こいつら、海賀のやったこと、自分が受けたこと、そして非人道的な行いを誰よりも知ってるんだ。
だから方法なんて選んではいられなかった。
というか、これ本当に僕真っ二つじゃないかな?
って、今、アキシオンさんの部屋から解放されて、再び海賀の謝罪記者会見場に戻っている僕。
「これってアキシオンさんでしょ? つまりその一部なんだから、なんとかできないのかなあ?」
って言ったら、
「以前の白馬との時とはまるで条件が違います、あの時は、あの白馬の刃は私の一部でしたから、どうどでもできたんです、でも今回は、オーナーが『専有者』として葉山静流を認めてしまっています、つまり、彼女の持つアキシオンとそれにともなく結果には私は干渉できません」
いや、なんだよ、先言ってよ、もう、まさに斬られる瞬間に出ちゃったじゃん。
仕方ない。
同時に当たるって言うなら、こっちが一本をずらすしかないじゃん。
当て方を考えて、僕は右手にしていたアキシオンを振り上げる。
ああ、上手く逸らしたけど、大きな岩かなんかを弾き返している気分だよ。しかも一枚入っちゃうし。
「きゃあ!!! 真壁!!!」
斬った葉山が悲鳴をあげてるよ。
薄く一枚じゃ無くて2センチ以上、体に入ってる。
うわ、首と肩の辺りから派手に出血してるのがわかる。でも、まあ、真っ二つは避けれた。
「何してるの? なんでここにいるの? これ、私の問題だよ?」
って葉山が、馬鹿みたいな顔して言うんだけど、なんかいつもの葉山で安心したよ。ってかこう言う顔してた方がいいな僕は。
でもすぐに違う表情になる。
やめなよ、そんな困った顔すんなって。