第59話【アキシオンさん、怒る】
ほんの一瞬の判断だった。
僕はあのリビングで、妹を見た瞬間、妹は自分のしでかしてしまった事に後悔するまもなく、僕をあの画面の中、つまり『謝罪記者会見』の現場へとイジェクトしてくれる。
阿吽の呼吸というか、きっと葉山は妹に2階の自室で、理由はともかく、あの場所へ転送してくれって頼んだ筈だ。
ざわめく記者会見会場。
突然の葉山の登場に暗殺って形に、それを阻止に現れた僕の、これも突然の出現。
きっとそれらしい理由で、妹を納得して、この場に、完全な殺意とともに転送されたんだ。
だからあの映像、つまり元海賀グループの会長に襲いかかっている葉山の姿を見た時、妹は、「しまった!」って顔してた。
僕が、「妹!」って声を掛けたと同時に、同じ場所に転送してくれた訳だ。
振り下ろす葉山のアキシオンの双剣の目の前に、回避なんて取れなくくらいの速度で転送されたんだ。気がついた時には海賀の会長を押しのけて、僕の体にその刃が入っているって実感があるくらいのタイミングだったよ。
ああ、斬られたね、って確信を得て、次の瞬間に僕はその場とは異なる世界にいた。
見渡してみて、ああ、またあのアキシオンさん的便利空間かあ、って思った。
ほら、白馬さんに大通公園で斬られた時にも来たことのある、今度はもうちょっとソフトで柔らかみのある世界だったけど、でも、この雰囲気は間違いない。
でもあのポリゴンカクカクなアキシオンさんいないから、変だなあ、って思ってたら、
「こっち!」
って、頭を掴んで強引に振り向かされて、その移った視線の先には、知らないお姉さんがいた。
驚くほど綺麗とか美人とかでは無くて、どこか安心できる、どこかでみたなあ、って顔してるけどどこにもいなさそうな、ともかくそんなお姉さん。
その怒りの表情に、若干引き気味の僕は、
「誰?」
って、ビビりながら尋ねると。
「あなたの言う所の『アキシオンさん』ですよ!」
え? 前と違うじゃん。
「私もオーナーのお陰で、女子化が止まらなくて困っているんですよ、本来は中性としてのイメージで行きたかったんですけどね、胸なんて、葉山静流の物ですよ、見ないフリしてしっかり隅々まで観察してたんですね、さすがですよ」
「な、な、な、な、な、な、な、な、な、何を言ってるのさ、変な事言うなよ、今はそれどころじゃないでしょ!」
『恥』と言う名のデカイ爆弾を食らった感じだよ。やめてよ、本当に見てないったら、見えちゃったんだよ、それほどガッツリ見たわけじゃないから、一瞬だけだったから、でも、忘れない訳で、仕方ないじゃん僕だって男の子なんだよ。
なんて見当違いにアワアワしている僕に、
「葉山静流が完全に殺す気で振るう剣の前にいきなり現れるなんて正気の沙汰ではありません、あの時の白馬の一撃なんて比べ物にならない、完全即死の攻撃でしたよ」
って言って、怒ってる。
いや、だって、アキシオンさんがなんとかしてくれるってのも意識の底にはあったからさ、その辺は確かに甘えていたかもね。
「いえ、甘えていたのは私の方です、オーナーの防護に関しては、完全に北海道ダンジョンをあてにしていましたから」
え? そうなの?
「そうです、あなたは、北海道ダンジョンという、いわゆる、万能にして全能の大地の鎧に守られています、しかし北海道から遠く離れたこの地では、彼女の庇護も届いてはいないのです」
ああ、そうか取材会見って、東京の某有名ホテルだったねえ。海賀の傘下の。
つまり、僕の守りの方は、完全に北海道ダンジョン、つまり春夏さんだったて事かあ。
「何を喜んでいるんですか?」
大地も底冷えするくらいの冷気を伴う表情で、普通に言われた。
言われて気がついたけど確かに僕喜んでたよ。
「葉山静流の剣技の基礎は、真壁今日花を倒す為に人工的にその肉体に付与された技術です、つまり基本的にオーナーとの相性は最悪です」
って言う。
「え? そうなの? そんなの知らなかったよ」
だって、葉山ってそう言う事、全然喋らないもん。
「双剣型の私を使った斬撃は、2斬にして、同じ起動を描く一撃必殺の剣技です」
と言ってから、若干、声を落つかせてから、アクシオンさんは、
「以前のままのマテリアルブレイドと言われていた頃なら、あなたの持つ剣は、彼女の持つ双剣に質量と攻撃力、衝撃から敗れた上に吸収融合されていたでしょう」
ともかくアキシオンさんは色々と怒り心頭で言った。言いまくられた。