第104【切って割って裂いて、中身を取り出す簡単なお仕事】
「食べてしまったって事なのかな?」
「おー、暴飲暴食ね」
「いやそれをいうなら、誤飲じゃないですかね」
「あ、赤ちゃんとかが偶にやって、お母さんをビックリさせる奴だ」
「秋くんも、小さいとき10円玉を飲み込んだって、お母さんが言ってた」
「え? 僕、無事だったの?」
「その後、100円玉も飲んだって、お母さんが言ってた」
当時の僕は卑しく、なんでも飲み込むモンスターだったらしい、お腹には傷跡がないので、多分、だけど、切って出した訳ではないらしい。
「おー、残念、お金は食べれませんよ」
って今の僕に親切に教えてくれるのはシリカさんだ、「ハハ」って乾いた笑いで返事しちゃったよ。
そんな事はともかく、現象を統括して、総合して考え出せる結論は、
「お腹の中に入っている桃井って人を、自分のお腹を切り裂いて取り出して欲しいって事?」
と、僕はラミアさんになんとかひねり出した回答を告げてみた。
すると、ラミアさんは、本当に、『ニッコリ』と笑って、頷くんだよ、ここで確信を持ったんだけど、モンスターって言葉が通じるんだな、ってそう思ったよ。
「言葉が通じてますね、秋さん」
って角田さんが驚いているから、これってあまりない事なんだろうな。
そんな稀有な言葉を理解しているラミアさんは、その場に大きな肢体を浅い海にゴロンと横にして、自分の背中に刺さっている剣や槍なんて構わず、仰向けになってくれる。
多分、お腹を切りやすい姿勢を取ってくれているんだ。
「ちょっと待っててね」
と僕はラミアさんに告げた。
うん、そうだね、ひとまずここで考えてみようよ。僕1人ではなくてみんなで考えてみようと思うんだ。
つまり、ここから、作戦会議。
まず、ラミアさんの目的だ。
彼女は、どうも、なんらかの理由で飲み込んでしまった『桃井』って人を自分の体内から取り出す事が目的みたいだ。多分だけど、そのためにダンジョン内のこんな浅いところまでノコノコと出て来たっていう事だ。
角田さんがいうには、ラミアさんが受けた攻撃、刺さっている剣的な物って、全部背中に集中しているから、ラミアさんは逃げる時に攻撃を受けてるって判断している。
つまり、今の僕らみたいにラミアさんと意思の疎通を図ろうとする人間はいなくて、むしろ、敵対している人達から逃げて来たことになる。で、このラミアさんに敵対するものって、なんらかの目的、それも相当の攻撃の意思みたいなものがあるって角田さんがいう。
「エルダーに喧嘩売るような奴らですよ、まともじゃないし、絶対の目的があるって考えるのが普通ですよ」
おそらくは、大きな集団として、ラミアさんに対峙したんだっていう推測がされる。つまり、数でエルダーなラミアさんを圧倒できる戦力があった、もしくはエルダーを打ち倒せるほどの戦力を有したダンジョンウォーカーが、ラミアさんを逃走する方向へ追いやってしまったって事だ。
「じゃあ、敵を飲み込んだって事?」
桃井って人が敵で、それを飲み込んでしまったって事なら、別にわざわざお腹を割いてまで取り出す必要なんてなくて、怖いけど、むしろ知らんぷりで、消化してしまった方がいいじゃんって思う。わざわざお腹を痛めてまだ、桃井って人を取り出す必要なんてない筈だからね。
むしろ、それが目的でここまで来ているんだから、ラミアさんにとって、食べてしまった、桃井って人は、多分だけど、大切な人なのかもしれない。
今は状況しかないけど、僕はこの日、北海道ダンジョンに関して、気持ちが切り替わったというより、なんか大切なものが増えて豊かになった感じがしたんだ。
だから、ラミアさんとこうして相互理解ってことがさ、今後の僕のダンジョン生活の為にも、大事な事だった、って気がしてる。
そして、どうしてか、ダンジョンウォーカー、人とモンスターがこうして、仲良くしてるってことに、形にならない懐かしくも嬉しさを感じていたんだ。