第51話【魔物部位の拒絶、切り離し待ったなし】
今度は魔物を人に移植したって事なんだろうか?
葉山の時は、スキルを発現させた、あくまで人間の部位だったけど、今度はそれ以上の事をしている、と言うか、タガが外れた感じだ。
以前はギリギリの人の強化と言える処置だったけど、今度は本気で化物を作っている気がする。
僕は雨崎さんの素早い突きを交わしながら、そんな事を考えていた。
若干の違和感。
疑心。
おかしいよね。
だって、人を魔物にするくらいなら魔物のままの方が強いと思うんだ。
と言うか、魔物そのものを強化した方が早い気がするんだよ。
どうして、こんな分かりやすい『酷い事』をしているのか、ちょっと理解に苦しむ。
おっと、ちょっと大きく避けすぎた。
間合いも、速度も、威力も、きっとこれ人が行える範疇を超えてるな。
もちろん、これらの効果が欲しくてこんな事をしているんだろうけど、最初からこんな姿ってわけでもないのに、雨崎さん、猫科の足と、外骨格の腕を上手に使いこないしている。やっぱり、一つの競技で鍛えていた人って違うよね。
多少の長さや力の操作もきちんと把握してる感じがするよ。
よく見ると、雨崎さんの額には、クモみたいな単眼が三つ。
感覚系も強化されているのがわかる。加えてその土台がオリンピック強化選手になれるくらいの身体能力。今までの、スキル依存型の英雄陣の人たちとはまるで一線を画している。
そんな彼女。
「当たらないなあ」
って笑っちゃうくらい普通に呟いていた。
そして、
「それはスキルじゃないですよね?」
って尋ねて来るから、
「うん、まあ」
って答えると、
「人間って、そこまで鍛え上げれるものなんですね」
と、言われる。
いや、僕の場合は、強いて言うなら、なるべくしてなったと言うか、母さんにこの段階まで引き摺り上げられたと言うか、なんと言うか。
だから、
「指導者がよかったんだよ」
と言いながら、何発目かの突きを避ける。
「いえ、それはないです、受ける側に才能があっての良いコーチなり監督ですから」
「そうなの?」
「そうですよ」
と押して来る。
そして呟く様に、まるでダンジョンに語りかける様に彼女はこうも言うんだよ。
「知らなかった、こんな世界があるなんて、知っていたら、もっと早くここに来ていたかもしれない」
とか言うから、
「でも、ダンジョンに入っちゃうと、もうフェイシングとか、公式の大会出れなくなっちゃうよ」
って言ったらさ、
「いえ、さっきみたいに、あんな強い女の子の子と戦えるし、今、魔王様とも戦ってます、これって今までにどんな凄い試合をして来たかってことより素敵です、本当に狭かったなあ、私」
にっこりと微笑むその顔には、ちょっと残念って表情も浮かべていた。
ここで終わりを覚悟しているんだから、それは当たり前だよね。彼女はもう先が無いって考えてる。
なんかこの子、相馬さんに似てるなあ、顔つきは全然違ってて、相馬さんみたいに自分にも他人にも厳しい風では無くて、どこか優しそうな顔立ちだよ。垂れ目気味だからそう見えるのかもしれないね。
そして彼女は言うんだ。
「じゃあ、魔王様、そろそろ殺してください」
ホント、『ちょっと、書くもの貸して』くらいの気軽さで言って来るから困る。
「いや、それはどうだろう?」
って雨崎さんの覚悟というか決心には悪いけど、ちょっと言葉で遠ざけて僕は言った。
「でも、時間の問題ではないですか? 私、こんな醜態を晒しても、未だ魔王様に勝てるイメージ出てこないですよ」
とか言うから、本当に、命のやり取りというか、こんな絶望的な状態で状況を理解というか冷静に判断して普通に言って来るからびっくりする。
でも、それには理由もある。
彼女と極めて近い位置で対峙する僕は、彼女から発する異常なほどの熱の量に驚いている。雨崎さんの体温が以上な程、上昇しているんだ。
多分、だけど、雨崎さんって、この姿になるとそれほど長くは保てない。きっと死へのカウントダウンはすでに始まっているのだと思う。