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第49話【編み込まれた魔物少女】

 そのまま近づく僕に、今まで蒼さんと戦っていた彼女は息を切らせながら、僕の方を見つめて言った。


 「良かった、魔王が相手してくれるんですね、もう、私、時間が無いから」


 と言った。


 とても明るく、そして、そんな言葉を吐き出す時間も惜しいみたいな言い方だった。


 その瞬間、口を抑えて、きっと抵抗できない嘔吐感に襲われた葉山がヘタリ混んだ。


 そうなんだ。疑念が確信に変わったね。


 すらりとした高い身長、見た感じが相馬奏さんに似てる。所謂、スポーツ系かっこいい女子。


 服装もあの時の英雄陣の人たちと同じ、ジャージなんだか、軽鎧なんだかって言う姿。でもそんな中でも、一つの競技のために計画的に鍛えられた体っていうのがわかるよ。


 短い男の子みたいな髪型に、持っている武器は聖剣の『エペ』タイプ。突に特化した剣だね。確か銘が、『ユニ』、とても綺麗な戦い方で、普通にオリンピックでフェイシングの試合を見ているみたいだった。きっと競技の上で強い人だと思う。


 でもダンジョンに来てしまっては、スポーツとしての競技は続けられないだろうといった、誰もが知る情報が、彼女の立場を余計に悲しいって感じさせた。


 「私、あの英雄陣がこの北海道ダンジョンに突撃したときには参加できなかったんですよ」


 明るい彼女の声。


 僕は彼女の声にこう答える。


 「病院に居たんでしょ?」


 すると、彼女は、


 「そうなんです! 良くご存知ですね」


 だよね、でも、きっとそこは病院ではなくて、僕が葉山から教えてもらっている限りでは、『施設』なんだ。医療の行為はされるけど、それは適正でもなければ、合法でも無い。


 「初めていいですか?」


 僕のそんな思考とは別に、彼女はまるで、練習試合でもする様に尋ねてくるから。


 「うん、いいよ」


 と返事をすると、まるでフェイシングの試合を始める時の様に、独特の構えを取る。肘は90度曲げ、手首、肘、肩が同一のラインに来てる。本当に、今から試合が始まる様だ。


 「誰か、試合開始の掛け声を!」


 そう彼女が叫んだ。


 え? どうしよう? フェイシングの掛け声なんて知らないんだけど?


 と戸惑う僕の横で、


  「Rassemblez! Saluez!《ラッサンブレ・サリューエ!》」

 って声がかかかる。


 うお! っと思ってみると、そこにはいつの間にか雪華さんがいて、

 僕が気がついた事を確認すると、僕の方に近づいて来て、小さな声で、


 「大丈夫です、自体は把握しました、助けになれると思います」


 と言ってくれた。早、雪華さん来るの早!


 そして、再び離れて、僕ら二人を見渡して、


 「「Allez!(アレ!)」


 雪華さんのその声で、彼女の突進と突きがが来た。


 僕はその時、座り込んでいる葉山の方が気になってしまって、いつの間にか僕の手の中にあった、アキシオンにも気がつかないでいた。本当にアキシオンさんて空気読むな

あ、って感心してると、顔に3発の突きが入る。あ、そうか、付き合うなら、ここはフェイシングと同様にお互いが、一直線に並んで競技しないといけないんだよね。


 僕は彼女に付き合うことにした。


 互いに突きまくる。けど有効な突きの出ないまま、それが繰り返される。


 その時の、この元英雄陣の彼女の顔がさ、もう、すごい笑顔で、まるで、悔いの残らない様に、自分の全てを出し切るかの様に、いや出しているかの様な笑顔がさ、とても印象的で、以前、蒼さんと、多紫の町の祭りで真剣に戦った時みたいな、そんなノリなんだけど、あのときには無い感情があるんだよ。


 それは理不尽を受け入れている悲しみにも満たない感情と、怒りにも足りない半端な情動、どうしていいのかわからないって言う迷い。でも、今こうして、僕と戦ってる喜びで全部打ち消そうとしている。


 いや、無理やり納得させようとしているのかな? 押し込めてるイメージが凄い。


 一旦、離れる彼女。


 かなり息が上がっている。


 汗まみれな顔を、変わらぬ笑顔で飾りながら、


 「魔王さんは、今、世界で一番強いんですよね?」


 って聞いてくるから、うん、って言おうとして、母さんの顔が浮かんで、あ、真希さんもだ。だから、


 「うーん、2番か3番目かな? 確証はないけど」


 と言うと、


 「そうなんですか?」


 と言ってから、


 「どんな世界にも上には上がいるんですね」


 と納得してくれたみたいに言うから、ちょっとおかしかった。

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