第47話【悲しさも寂しさもそのままに】
いやいやいやい、葉山、ダメだろ、失恋した人をそんなに責めちゃ。
「言う訳ないだろ!」
って真々地さんに突っ込まれてたよ。
怒鳴りつつも、ちょっと涙目になってる真々地さん。
きっと、本当に一心さんの事が好きだったんだろうなあ、ってわかるよ。
まあ、一心さん綺麗だし、美人だし、気が利くし、何より淑女だし、そして誰とも構わず優しいもんね。近くにそんな人いたら好きになるのも無理はないよ。
特に女子に優しくされた事がない男子ならなおさらだよね。
僕なんて、学校内以外の女子に一斉無視食らってなかったら、そんな風に触れられて来たらきっと勘違いしてしまってたかもしれないけど、そうでもないんだ。
そう、女子からの物言わぬ好意って、そう感じてしまうのは、ほぼ勘違いなんだ。
だからこそ僕の場合、女子からの、いわれのない優しさには自動的に防御姿勢をとってしまうのはきっと、こういった面では常に警戒を忘れないから、真々地さんよりはもしかしたら大人なのかも知れない、なんて思ったら、
「いえ、ただの疑い深い、他人からの好意への防御力が無駄に高いだけの変な人ですよ」
ってアキシオンさんからのいらないツッコミが来た。
そして葉山も、
「真壁の人格構成において、あの事件は大きな失敗だったよね、あれ、どうしてこんな風に素直にねじ曲がっていらないところが強固に真っ直ぐ育ってしまったんだろう?」
「無駄に精神力があるからな、こいつは、潮目が引くように女子が周りから去っても、全く気にする事無く、普通だったそうだぞ」
って薫子さんまで言ってる。
「一回聞こうと思ってたんだけど、その時真壁ってど思ってたの? あの時、あの瞬間からも以前と変わらなかったうよね? 委員長の立場の私から見てもちょっとやり過ぎじゃあないかって思ってたけど、真壁は全く変わらす生活を続けていたよね」
って、なんで今、僕が責められてるんだよ?
今、問題なのは、真々地さんでしょ?
ってその真々地さん、なんの話だ?って疑問を持って、近くの西木田くんとか左方さんに当時の僕の女子から一斉無視の話を聞かされて、とても深い同情の目を向けられてしまうよ。
そんな、まさに興味の対象が僕に移り始めていた最中、
「ほら、やめないか」
と大人な瑠璃さんが一言で止めてくれる。
そして、
「それにだ、もし、ここでその問題を問うのなら、そこに存在していた一人の女子の行動と、それに伴う好意を証明しないとならない」
って言ってた。
一人の女子。
好意。
まるでこの室内の温度が変わってしまって、空気そのものが入れ替わってしまう感覚。
徐々にじゃなくて、一瞬で何もかもが入れ替わる、そんな無茶な切り替え。
僕はその瞬間に、どうしてか春夏さんの顔を思い出してしまった。
びっくりするくらいの絶対存在。
なんだろう、これ、僕は春夏さんの声とか姿とかじゃなくて、あの時の体温や匂いまで思い出してしまうんだ。
もう心の中では、今の自分にとっては小さいことにしてるつもりだったんだえけど、なるべくなら今は考えないようにしてるけど、だから今は過去の事にしてたつもりだったけど、そんなことできてはいないんだ。
嫌だなあって思いつつも、自分自身の中にある欠けてしまったあまりにも大きな部分の再確認に、悲しいとも切ないとも言えない、そんな気分になる。
僕は、春夏さんを失ってから、立ち直ってなんてなくて、むしろ立ち直ってはいけないって考えているからこそ、ここには手付かずだったんだな、って、この散らかった壊れた感情はきっと他のもので補ってはいけないものだって気がつくから、僕は真々地さんの気持ち、ハートブレイクなサムライ気持ちがわからないけど、同じじゃないけど、理解はできるんだ。
ああ、そうか、僕の心もまた壊れたままなんだなあ、って、直してしまいたくないのは真々地さんも同じだったんだ。
しんみりとした雰囲気に、きっとその雰囲気を察した葉山が、
「ごめん、真壁」
って、なんで葉山が落ち込んでるんだよって顔して言うんだけど、違うんだよなあ。
だから僕は真々地さんに言うんだ。
「もっと悲しみたいよね」
「だよな」
って真々地さんも即答だったよ。
こんな時、大人なら夜は遅くまでお酒でも飲み明かすんだろうけど、幸い僕らは未成年だからね。
沈んてしまった、会議室の中で僕と真々地さんはお茶を啜る。
お互いに今の形を悲しみながら。
でも真々地さんと僕には違う点があるんだよね。
真々地さんはきっとこの悲しみを乗り越える。
だって、一心さんは幸せなのだから。
きっとこの悲しみを超えて、新しい場所に行く。
でも、僕はこの悲しみを忘れたり、諦めたりはしないんだ。
だって、僕が春夏さんを諦める訳ないじゃん。
だから、今の悲しみと寂しさに蓋をせすに行くんだ。
春夏さんが居ない悲しみは春夏さんで埋めるしかないからさ。
だからこれは既に決着の付いている感情で決心。
でも悲しいのは仕方ないじゃん。
ちょっと嫌だな、この雰囲気。みんな切り替えて行こうよ、ってくらい会議室全体の空気が重いけど、その中にちょっと違う意識と視線。
謎の彼女は、どこか優しく、そして顔も赤いね、って感じで僕を見ていた。
「どうしたの?」
って尋ねたら、
「ごめんなさい、ちょっとドキドキしてます」
って言ってた。
何を? ってå思うけど、これも聞いちゃダメだね、って思うからさ、ごまかすつもりもなくて、またお茶を啜ったよ。
春夏さんに会いたいけど、でも、今は居ない彼女はそんな僕に今も尚、気を使ってくれてるのがわかるからさ、今は謎の彼女を見て、ちょっと心を落ち着ける。
それでも、本音を言えばとても我ながら女々しく誰も居なければ、堂々とイジけていたい僕なんだよ。