第45話【終わっていた事知る侍は咽び泣く】
僕以外はそんなに驚いてないから、この視点というか視界にあるロゴは僕にしか見てないって気がする。
うん、他の人はどちらかというと特に様子も変わる事なく、普通にしてるから、これ、きっとアキシオンさんの視覚的効果なのだと思う。
一体、何をしたいのさアキシオンさん。と思う僕の気持ちはアキシオンさんには伝わっているはずなので、その上で答えないってことはこの件に関してはあまり関係ないって事で無視していいって事だなって判断するけど、それでも何も言って来ないから、まあいいやになる。
だから気にしないようにして、
「それに、あの二人が結婚する事になったとして、真々地さん関係ないような気がしするんだけど」
って言ったら、今度はズサササシャャャャー!!!!!!!、凄い音して、『クリティカル ヒット!!!』って出たよ。
耳元で鳴るその音の大きさにびっくりして、
「もう、何なのアキシオンさん!!」
って思わず叫んでしまう僕に、みんなポカンとして見てるから、この音も聞こえてるのも僕だけなんだなって、思うけど、この音、それに、どういう効果か、真々地さん、ガックリと肩というか首を落として、テーブルに倒れて行くから、ちょっと、いたずらにしてもやり過ぎじゃあないかって、思って、怒ってしまう僕だよ。
で、スローモーションで倒れ込むほどの得体の知れないダメージを受けた真々地さんなんだけど、一体、何をしたの?
「いえ、私は別に……」
とか、しらばっくれるアキシオンさんだよ。
「嘘じゃん、ダメージ受けてるじゃん」
「それはオーナの刃が彼を貫いた為に、このような事態になっているのだと思われます」
いやいやいや、それは無い。
だった僕、何もして無いよ。
すると、アキシオンさんは、極めて業務的口調になって僕にこうも尋ねて来た。
「なぜ、喜耒薫子さんが、今も癒えぬ心の傷を負っていると言う事実は認識してますか?」
って聞いて来るから、いや、そんなの今は関係ないじゃん、って言いそうになるけど、アキシオンさんの言う事だから、きっとどこかで細くも繋がっているのでは? と思いつつも、正直そんな心当たりもないからさ、
「そう、なの?」
って変な返事になる。
「オーナーの言葉は時として、剣化した私など比べ物にならないほどの切れ味を発揮します」
それはつまり、僕の言葉が薫子さんや、今はここにいる真々地さんを傷つけてるって事?
全く身に覚えがない。
「オーナが先ほど彼に言った言葉を思い出してください」
ってなんか、神妙に言われる。
言って見って、って言われてもなあ、何か僕言っただろうか?
「ああ、僕、言ったのってあの二人が結婚するって話??? それがどうしたの?」
って言ったら、真々地さん、突っ伏したまま、ピクって動いた。
え? 辰野さんと一心さんが結婚するってのがダメだったの?
ちょっと考えてみる。
「真々地さんって、一心さんと関係ないよね? だって、今までいなかったじゃない、それに、もし関係あるなら、一心さんから真々地さんの名前とか出てきてもおかしくないじゃん、僕、一回だって、真々地さんの名前を一心さんから聞いてない」
と断っておいてから、
「そんな真々地さんが一心さんと辰野さんの当事者って訳ないくらい僕にだってわかるよ、彼らの御両親や友達関係ならいざ知らず、急に現れて、二人が結婚するからだ! とか言われても、そんなの知らないし、もしも文句があるなら、直接本人たちに言えばいいじゃん」
すると、どう言う訳か、左方さんが、
「それができればここにいないでしょうね」
とか言ってて、まるで呆れてるみたいな言い方に、「唯!」って叱咤するみたいに西木田くんに注意を受けてシュンとしてた。
なんで怒られてるんだろ? 僕もそう思うよ。
ともかく、真々地さんがどんな何を思っていようとも、辰野さんと一心さんの事は、当事者二人の問題であって、それを他人がどうこう言う問題じゃあないんだよ。
「あ、だから八つ当たりに来たのね」
って葉山が言うから、なんだよ、僕、八つ当られただけかよ……、まあいいけど。
それにさ、僕としてはあの時だから多紫町での二人を思い出すと、そもそも誰がどうしたって文句を言われる筋合いはないんだよ。
だから、ここは一つ、声を出して誤解のない様に言ってやったんだ。
「一心さんとても幸せそうだったよ」
なんか、真々地さんの立場の誤解って、どうも辰野さんが無理矢理、一心さんをお嫁さんにしたみたいな言い方だったからさ。
すると、さっきよりももっと大きくて、鋭い音が聞こえてきてさ、変な効果音、何かが、パリーんって割れたみたいな音も入ってた。
「もうなんなのアキシオンさん」
って文句言ったら、
「今のトドメです、オーバーキルです」
って言われて、いや、なんの話さ?
って思ってると、なんだろう、真々地さんさめざめと泣き出すんだよ。
そして、それはやがて大きな嗚咽になって、室内に響いた。
なんて声をかけたらいいんんだ、って、真々地さんを見てると、
「秋先輩、もうこれ以上は可哀想ですよ、ね」
って雪華さんに言われるから、黙るしかない僕だよ。
なんとも言えない空気。
誰も何も言えない雰囲気。
この冷たい湿度に満たされた空間で、やる事もなく、ただお茶に口をつける僕は、その熱さに驚いて、「熱っち!」って小声で叫ぶも妙に室内に響いていた。
いや、もう、ほんと、重いなあ。




