第37話【タングステン勇者さん、自動消火設備に敗れる】
思うのと同時に、傘に、大量の雨音、じゃないねこれ、この室内全体に、豪雨が降ったみたいな光景になり、魔法の炎は瞬く間に鎮火される。
台車に乗ったままのタングステンくんは表情があまり変わらないけど、さっき魔法を唱えていたままの口だから、驚いているみたいに見えるね、そこに水がどんどん溜まって行って、結構間抜けに見える。
その口が、水をガボガボさせながら、
「こ、これは一体!」
とか言うから、もう笑ってしまう。
牡丹さんは大爆笑していた。さすがにこのシュチュは、我慢できないね。爆笑及び唖然不可避だよ。
まあ、それでも、タングステン君の疑問には答えてやらないといけないなあ、って思って、
「スプリンクラーだよ」
って教えてあげた。
すると、タングステンくん、
「水系の魔法か?」
体と表情はタングステン化、例えるなら像の様に固定されているから、口の中の水が排出できなくて相変わらずゴボゴボ言いながら言うから、苦しそうでかわいそうだから、
「違うよ、自動消火設備だよ」
と教えてあげた。
ほら、ここNPO法人の建物で、ユニバーサルデザインだからさ、火災とか地震の災害への対応の基準が厳しいんだよ、これ設置しないとダメ、って言われてるんだよ。なんでも不得的多数の人たちが使用する公共の特殊建築物にあたるそうだ。
「では、炎以外の、例えば水系の魔法ならいけたのか?」
「このフロアを埋め尽くす、ハイドロ系を使っても、転移強制排出されて、石狩川の河口付近い排出されるぞ」
と答えるのは、天井付近でスプリンクラーの直撃を受けたであろう蒼さんだった、びしょ濡れだ。まだ水が滴っていて、目が開けずらそうだから、僕のジャージの袖で拭いてあげた。
「じゃ、じゃあ、雷系はどうだ?」
何かにすがりつく様に尋ねるタングステンくんの望みは、薫子さんのなんの感情も伴わない無慈悲な一言で断たれる。
「避雷針設備がある」
タングステン像になってるから、ガックリ崩れ落ちる訳にもいかなくて、でも開けっ放しの口に、変わらぬ表情だったけど、どこかショックを受けて悲壮に見えるのは気のせいってわけでもないと思う。
結局、タングステンくんは搬入された時と同様に、台車に載せられたままだったので、ここにこのまま鎮座されてもってなあ、って思って、扉付近で待機していた女子達、最初は関係線とか見えなくて、「友達?」って聞くと首をよこに振るから、「彼女?」って聞いたら、もっと激しく振るから、見かねた葉山が「妹さん?」でようやく頷いて、その妹さん達に持って帰ってもらった。
考え方は悪くはないけど、最終ボスには魔法が効かないってのは定石じゃないかな?
今回の初勇者来襲は、ちょっと残念な結果になってしまったけど、これに懲りずに、またやって来て欲しいな、と思う。
そんな事より、僕、今肩からびしょびしょなんだよね。
葉山を無理して傘に入れたからなんだけど、あんまり葉山は濡れてない。なるべく傘に入れる様に僕が余計に傘からはみ出てしまったから。
「どっかで着替えたいなあ」
って呟くと、
「温泉寄って帰らない?」
って葉山が言うから、それもいいね、になって、今日は早いけど魔王城は閉店にさせてもらった。
一応、魔王城の営業時間は、朝の9:30〜夕方の16:00までだから。
時間外に来ても誰もいないよ。
今日はともかく、勇者来襲と言うより、自動消火設備の動作確認の証明みたいな日になってしまった気がする。
せっかく聖剣があるんだから、剣で来てよね、って思うものの、これで魔王城は魔法が効かないって知ってくれると嬉しいかもね。
じゃあ、今日はもう魔王城閉めるよ。
ちょっと早いけど、そう言う日もあるって事で、温泉行こ。