第36話【魔王城謁見の間に広がる激しい炎】
角田さんて言えばね、あの角田さん、女性の、彼女さんのほうね、その彼女にヤキを入れられて、今はダンジョンの外で生活している。喧嘩してるみたいだね、犬も食べられないヤツだね。
だから、今も、1柱不在なんだ、ダンジョンの神様。
まあ、そっちもいいや。
で、その台車で運ばれて来た、初勇者。
例の、手を変え品お変えて、チープな変装で何度も魔法スキルを不正な手段で手に入れた人ね、日向ララさんを泣かした人でもあるよね。
で、その人、タングステンになって、一体何をやりたいのだろうと、思ったんだけど、見守ってる僕らはようやくと言うかなんと言うか、その正体と言うか目的がしれた。
彼の、そのタングステンと言う重金属になってまるで動かない体の中で唯一動いたのは、彼の口と喉。正確には口は開きっぱなしで、その奥の喉が動いている感じ、だから声が出る。
そう、彼は、この状態で魔法を撃とうとしていたんだ。と言うか実際に撃って来た。
ダンジョンに比べれば、狭い、それでも広い謁見の間に、ちょっと特徴のある高くも低くもない声が響く。
「燃えさかれ、青き炎、焼き尽くせ紅蓮の炎、我が剣となりて、我が槌となりて、仇な
す敵を葬り、敵意を焼却せよ、ガ・フレア、ラ・ブレイズ!」
その瞬間、青色の炎と赤い炎が同時に巻き起こる。
側に来ていた、椿さんが、
「2呪文の重複同時詠唱なんてやるじゃん!」
って目を輝かせていた。
つまり、この勇者が何をやりたかったのかと言うと、多分、これは予想なんだけど、いきなり敵の前に出て来て、そのまま魔法を撃つのって難しいじゃん。詠唱とか集中とか、どうしても隙ができてしまうよね。
もちろん、そのための仲間ではあるんだけど、それでも、完璧ではないし、特に強い相手に対してならどこかに綻びができる。また敵の種類や数の上では対抗できない場合もある。
でも、切っても叩いても平気なタングステンになってしまえば相手は、この場合僕らだけど、彼の魔法を止めるのはお手上げだよね。
「斬れますよ」
ってアキシオンさんは言うんだけど、まあ、折角だから見てみようよ、この魔王城の設備を試すのもいい機会だし。
だから、台車とかはともかく、よく考えられた方法だよ。これ。
きっとダンジョンウォーカーの中にあって、思いつく人っていないと思う。で、たとえ思いついたにしても実行する人はもっといないと思う。
「ああ、結構威力あるわね、反発する二種類の炎の拡散は、爆発にも近いから、これ上級魔法どころか、未だ知られていな隠された魔法くらいには匹敵するわよ」
と椿さんが解説してくれる。
そして、僕はと言うと、
「すごいね、タングステン、金属になってもしゃべれるものなんだね」
って変なところを感心してしまっていた。
巻き上がる炎が2種類の炎が、膨張を繰り返しながら、高い天井へと伸びて行く。
ここ4フロア分の吹き抜けになってるから、小さな建物なら丸ごと入るくらい広くて高い。
そしてその広い空間を埋め尽くす様な炎の音に混じって聴き慣れない電子音が響いているのに気がついた。
僕だけでなく、みんな聞こえてるみたいだから、そろそろ備えようかって感じになる。
だから、僕らは現状に対抗の策を取る。
彼の、そのタングステンくんの魔法に対して僕らはみんな傘を差す。
「あ、私、傘忘れちゃった」
って、葉山が僕の差した傘の中に入って来る。
いや忘れたとかの問題じゃないよね、この玉座の後ろに備え付けてるじゃん、2本くらい余ってるじゃん。
と言うおうとするも、葉山があまりのニコニコぶりに、まあいいか、になる。
ちなみに、此花姉妹は、完全防備の雨合羽だった。しかも普通にオシャレな、これなら街でも安心、なタイプではなくて、ガッツリの作業系のヤツ。長靴まで万全だった。
椿さん曰く、「ただの水じゃないから、対火炎魔法に調整したヤツだから」なのだそうだ。
あ、火災警報が第二段階に入った、次くるね。