第102【微笑むラミア】
いくら、鱗に包まれている姿でも、あそこまでグラマラスだとさすがになあ、あ、お臍と胸の谷間、首から肩にかけてのラインの当たりは裸な感じだ。なんかラッキーって感じがものすごいする。
待って、春夏さん、そんな顔しないで、僕って思春期だからさ、これは仕方のない事なんだけど、なんかさ、ちょっと胸のあたりに目が、どうしても視線が行ってしまうと、ほら、自然に笑顔が。
「でかいですね」
「いや、まったくだね」
角田さんも余計な事言わなくていいから、思わず同調しちゃったよ。
僕は、何とか理性を振り絞って、たわわなそれから目をそらした。
恐るべし、エルダーラミア。大きさも破壊力もエルダー級だよ。
意外な方向からやってくる攻撃と、今まで受けた事がないような敵からの視覚的というか特に男性の本能を揺さぶる精神的攻撃によって、いささか自分を見失いそうになる僕は、ここで気がつく、っているか、ようやく気づいた。
まったく違わないんだ。
なにがって、空気だよ?
僕らがここに来る前、来てから、で、このラミアと出会ってからの雰囲気というか空気がまるで変わらないんだ。
真希さんにしっかり教わったはずの、あの独特の『遭遇感覚』なんて微塵もない。
体の大きさも、巨人くらいはあるラミアだよ、それが僕らを見下ろしてるってのに、今、この時点て、何のプレッシャーも無い。
あれ?
あの時の銀色のスライムの時や、地下歩行空間での君島からのミジンコ程度の敵意や害意が微塵も無い
んだ。例の遭遇感覚ってまるでなくて、それ以前に、前から感じていたんだけど、ある一定の範囲内に入って来られると、それなりに嫌な感じがあるんだよね、それが全くないんだ。
一体、どういう事なんだろう?
僕は、不自然な形でラミアから視線を離していたから、妙に下ばかりを見ていたんだけ
ど、ここでも気がついたんだ。
『鏡界の海』のさ、ラミアの周りの水がさ、妙に変色しているんだよ。
それはまぎれもない『赤』で、『血』である事が予想できた。
僕らはさ、このエルダーラミアを正面から見ていたから気がつかなかったけど、その背中には、無数の剣とか槍とかが刺さっているたんだ。
火傷とかもある。
一体、これってどういう事なんだろう?
僕の中で、警戒しようとしている気持の箍かが外れる。大丈夫だ、ここに敵はいない。
僕は、その時ラミアを見た。
大きくて美人な顔を見たんだ。
そして、僕は驚く、ってか息を飲んで、ただ茫然と、今、ここで起こっている事にバカみたいな顔して驚いている。
顔が向かい合った瞬間にさ、ラミアは笑顔になったんだよ。
この時、僕は初めて知ったんだ。
モンスターも笑うんだなあ、って。
確かにさ、顔はやっぱり綺麗で美人なんだけど、やっぱりモンスターなんだよ、作りが人に似ているけどやっぱり違うんだ。
でも、ものすごい笑顔で僕の方を見ているんだよ。
もっとも、僕は、この北海道ダンジョンにおいて、見て来たモンスターの数なんてたかが知れているよね、せいぜい浅階層くらいのもので、虫や無機物なんてものばかりだから、正確に言うなら、人間に近い、意識を共有できそうなタイプのモンスターは初めてで、多分、モンスターに対する考えや印象なんて読んで知った知識や、先入概念なのだとは思うけど、それが吹き飛んでしまった。