第33話【ついに登場! 初勇者??】
一応、こっちから、その異世界にいけないかどうか、様子をい見にいけないかなあ、って尋ねたところ、どうやら、出るは出れるけど入れないって話らしい。
異なる次元の世界なので、今のところアクシオンさんも干渉できないから、このまま落ちて来るのを待っているしかないのが現状なんだ。
落ちて来るってのはつまり干渉するために、こちらの世界に同期するから、その時が勝負な訳。
これは、僕の中に残っている春夏さんの記憶なんだけど、奴らの目的ってのが、この地との融合と言うか、その後に征服みたいな感じなのだそうだ。
そうやって、異世界は世界を拡張し、朽ちて行くはずの世界を延命して生き延びて来たって言ってた。
それが落ちて来る日は、向こう側の調整が働くから、正確なところはわかってない。でも、そんな先の未来でもない、もしかしたら、来週か、それともその次の週かってくらいに近くて、もしかしたら来年、いや再来年ってくらい遠いかもしれない。
問題は、滅び行く異世界が、このままいつまで保つか、そしてそこに住む異世界の住人がどれだけ我慢できるかにかかっていて、正確な所は読めない現状なんだ。
なんせ、奴らも一枚岩ではなくて、多様な考えがあるみたいなんだよ。
征服してしまおうとする勢力、全滅させてしまおうとする勢力、そして、春夏さんみたいな、穏健で、建設的な人もいる。
もちろん、異世界は壊す。
それが春夏さんの願いだからね。
約束だからね。
でも、なんだろうなあ、なんとなくだけど、春夏さんって、まだ僕に黙っている事があるみたいな気がするんだよ。
なんて言うのかな、もう一つの可能性、春夏さんの記憶に確かにあるんだけど、不自然に何も書き込まれていない一枚の記憶があるんだ。
いや、違うな、書き込まれている記憶の上に真っ白な記憶を上書きされてしまった様な、そんな気分。
だからめくっても何も出てこないから、ちょっと困ってる僕なんだよ。
困ると言うのは、迷うと言う事だから、選択肢が増えてるって事だと思えば、春夏さんの願いはともかく、僕としては可能性と言う時点では嬉しい事なんだけどね。
その為の迎え撃つ準備はこちらの方も着々と進めているのが現状なんだ。
今までも小規模ではあったのだと言う話。
でも今回は、以前とは比べ物にならない大きな干渉が来る。
こっちの世界を飲み込んでしまう様な大きな意思が、僕の中に春夏さんの感情として残っているんだ。
僕が知る彼らのイメージはあくまで春夏さんのイメージ。だから、あえて、奴なんて言い方をさせてもらっている。
ここまでの話はみんなにはしてるから、その上で、こうして協力してもらっているのは、本当に助かるよ。
ともかく順調で、何もかもが上手く行っている現状の中で、ついにその日は来た。
それはまさに、なんの前触れも無く、いきなりやって来た。
魔王城の扉が開いて、暗黒の騎士が、足早に入って来る。
まあ、土岐なんだけどね、以前よりも装備がパワーアップしている。一応、魔王城を守る『暗黒の騎士』してもらっている。
そして、その暗黒の騎士には暗黒の妻がいて、
「怪我とかしてないか? 状態はどうだ?」
と暗黒の騎士の後ろをついて来る。
「なあ、魔王、もう土岐にこんな危険な立場においておくのは止めにしてくれないか?」
とか、割と真剣に言われる。
でも、心配されている土岐の方はと言うと、その黒い仮面を外した顔は、結構いい笑顔だった。
そして、
「突破されたぞ、初の勇者の到来だ」
と言った。
これには、集まっているみんなも流石に沸き立った。
つまり、この、魔王城に初めての勇者の到来なのだ。
いよいよだなあ、と思って、普段あまり使っていない魔王の椅子に座って、勇者の到着を待つ。
薫子さんに、「座り方が浅いぞ」
と注意を受けるけど、この椅子、見た目優先だから、座り心地悪いんだよね。冷たいし。
扉の向こうから、徐々に近づいて来る足音。
そして、なんの溜めも、なんの演出も、なんの遠慮もなく、普通に扉は開いて、その人物は僕らの前に姿を現した。
頬を染めて、息を切らして、彼女は顔を上げた。
あれ? なんかデカくない?
角田さんより大きい気がする。
でも、モンスターとか魔物系の女子じゃないよ、ただ大きいってだけの普通の子だね、持ってるの杖だし、聖剣に杖形状は流石にないよね。
つまり、勇者じゃないって事?
じゃあ、誰なんだろ?
そんな彼女は言うんだ。
「全部私の責任なんです!」
って、そのちょっと高すぎるピーキーな声に、きっとここにいるみんなが、こう思ったに違いない。
何が?
って。
ひとまず、落ち着こうよ。
ともかく、話は聞くよ。
話はね。