第32話【白馬さんと三爪さんとディアボロスくん】
勇者計画が実装してから、ダンジョンの中にもいよいよ、それなりの効果が出始めていた。
計画は順調なので、今日は魔王城で、現状維持で現場待機。
特に《秋の木葉》から入って来る情報を聞くところによると順調な様だ。
何より勇者のみんな、目的を持てたのが凄くいい効果になってるらしい。
それまでなら、みんななんとなくダンジョンに通うって言う人が多かったのに比べて、今は、聖剣を配布、魔法を使える様になると、勇者になるべく、積極的に取り組む人達の多さに驚いていた。
勇者計画によって聖剣を配布したダンジョンウォーカーに対して、積極的に技術指導に回っている蒼さんの話によると、みな真剣に強くなろうとしている意思があるらしい。だから指導も熱くなる、と言っていた。
その中で、強さ的な目標として、ディアボロスくん程度なら瞬殺できる様にするくらいは強くすると言っていた。
それは結構凄いね、だってディアボロスくんて位置的に三柱神の人だから、角田さんとかアモンさんとかの強さに追いつこうって事でしょ?
そう思って、白馬さんの後ろにひっついているディアボロスくんにそんな話をしたら、
「僕、三柱神の中で最弱ですから、自分でも、どうやって三柱神になったのか不思議なくらいの強さですからね、僕を倒してもいい気にならない方がいいです」
と胸を張って言っていた。
そうなんだ。
ちょっと悲しい自己認識だよね、なんて思ってしまったけど、ディアボロスくんの前にいた白馬さんが、
「そうか、自分の能力をしっかりと把握できるのはいい事だぞ、偉いぞディア坊」
って褒めているんだよね、ディアボロスくんもテレテレになってるし。なんか、、見ててこの二人って仲がいいよね。
って笑う白馬さんだけど、最近、白馬さんがディアボロスくんに指名された『王』というより、とてもいいパパにしか見えない。
「そうやって班長が甘やかすから、ディアくんはちっとも三柱神の自覚が出ないんですよ」
と、三爪さんに割と厳しい口調で言われる白馬さんだった。
「そうか?」
特に三爪さんは、秋の木葉でも、ましてや魔王の仲間ってわけでもないけど、こうしてちょくちょく白馬さんの様子を見にきている。
本人は、「いえ、班長にディアくん任せておくのが心配で、こうやって直ぐに甘やかすので」とかいうんだけど、ディアボロスくんいなくても、三爪さん来るから、目的は白馬さんに見えるんだけどなあ、って、一度言おうとしたんだけど、葉山に「口を挟まない」って割と強めに言われて、それ以降、口を出してはいけない案件なんだな、って判断してそのままの状態に任せているんだよ。
ほら、僕って怒ってるまでもない厳しい口調の女子になんて勝てるわけないからさ、そして葉山がそう言っている以上、きっと僕が何か悪い事をしているという実感はあるんだ。詳細な原因なんて知らないけどさ。
で、以前、自衛隊をクビになった白馬さんを僕らの方に押しつけて来た三爪さんは、自分の親を使って防衛庁に働きかけて、白馬さんを防衛大学入学を画策中なんだそうだ。
彼女曰く、「だって、隊長みたいな人って、民間じゃ全く役に立ってないから、玄武岩みたいな堅物利用して、また自衛隊に入るしかないでしょ? これ以上、お館様にご迷惑をかける訳にいきませんしね、あーあ、結局私が面倒見るしかないんですよね」
とか言ってるから、「そんな事ないよ、白馬さん、頑張ってるからどこへ行っても大丈夫だから、そんなに心配しないでも……」って言おうとしたら、また葉山に「いいから黙れ」と言われるので、黙ってた。
ちなみに、三爪さんも、ダンジョン適齢期を過ぎたら防衛大学へ入るつもりなんだって。
そのために、以前の大通り決戦の時、あの僕と白馬さんが戦った時の記録ね、映像とか証拠とか、モリモリ消して、なかった事にして白馬さんの自衛隊復帰への動きを見せている。
で、今もディアボロスくんを中心に二人仲良く、特にディアボロスくんを引き合いに出しては言い合いをしているから、子供の事で対立する夫婦みたいに見えて来るから余計な事を言わない様に心がけようと思う。
ちなみに、子供の様に扱われるディアボロスくんに、一回、こんな扱いでいいの?的な話をした事があったんだけど、その時は彼は、
「チヤホヤされるの、僕好きです、別にいいですよ」
って言ってた。一応神の座に着く一柱のプライドなんてないらしい。
まあ、そっちはいいや。
で、勇者の方だけど、これで異世界から落ちて漏れて来る魔物くらいには対抗できるよね。一応、数的にはもう少し欲しいところだけど、札幌市を中心に広範囲に魔物がばら撒かれる様なら、やっぱり安心感として余裕はみていたからね。
とは思っているけど、ディアボロスくんがこの様子なら、もう一度、その辺の調整の話し合いは設けるべきだろうなあ、とは思う。