第31話【HDCU(北海道ダンジョン商取引組合)完売です】
でも、まあ確かに、あの優しい雪華さんも、大概を気にしない八瀬さんも若干引いてるものね。一人でブツブツ言うのは確かにね、って思うから、
今後はなるべく心の中の会話に収めようね、って心の中でアキシオンさんに言うと、
「え? オーナー突然、言葉が通らなくなりました、どうされました?」
って僕が思うことにキッチリ疑問を投げかけてくるから、聞こえてんじゃん、底意地の悪さの切れ味も伝説級かよ。
そんな風に思う僕の中で、確かにアキシオンさんはだいぶ底の方で喜びを感じていたんだ。叱咤はもちろん、侮蔑もわずかな文句も愚痴すらアキシオンさんにとっては喜びになるんだな、って思うと、あんまり、僕みたいな健全な青少年が持つ剣としてはふさわしくないのかも、って思ったら、出現させていたアキシオンの温度が一瞬だけど、上昇したのがわかったんだ。
うん、熱くってじゃなくて、なんか生暖かい。
そんな風に自分の剣と不毛なやりとりというか、決して埋まる事ない相互理解という溝を埋める作業をしている僕に、
「あ、そうそう、魔王、一応確認したいのだが?」
って瑠璃さんが言い出すので、なんだろう?って顔を向けると、
一回、瑠璃さんは桃さんと顔を見合わせて、
「これで、私達は、君の配下に正式に組みされたと、そう受け取ってもいいのだろうか?」
っていうから、
「僕としては問題ないですけど、瑠璃さんはそれでいいんですか?」
ずっと思ってたからさ、質問を質問で返してしまった。
すると、瑠璃さんは、
「ああ、それがいい、でないと意味がないんだ、今一度、言葉として配下へ入ることの許可をもらいたい」
瑠璃さんて、用心深い人だけど、今回も随分と念を押すんだなあ、って思うものの、彼女達の優秀な頭脳と、僕らの仲間ではあまり詳しくない経済分野な方向が盤石なものになるのはわかるからさ、もう僕らにとってメリットしかないので、そんな言葉だけでいいなら、って思うからさ、
「はい、します、それでいいです」
正式に配下に加えるって言う段取りも僕にはわからなくて、ともかく許可というか快諾みたいな意思を示ようにすると、瑠璃さん桃さんもニッコリと笑って、
「その言葉を持って本契約は締結された、つまり売買契約の成立だ」
と瑠璃さんが言うんだ。
そして、瑠璃さんと桃さんが顔を見合わせて、僕に告げる。うん、売り買いで良く聞く言葉。さして珍しくもない言葉だよ。
「お買い上げありがとうございました、今後ともお買い上げの商品、私達HDCU(北海道ダンジョン商取引組合)ご愛顧くださいますようお願い申し上げます」
と、とてもいい笑顔。
そして、何も言い返せない笑顔。
うん、まあ、よかったよ。って、そこしか思考の持って行きようが無い、逃げ道の無い笑顔。
そして、いやだからかな、浮かび上がって来る若干の疑問……
彼女達の言うお買い上げって、一体僕は彼女達から何を買ったのだろう?
そんな気持ちも、彼女達が僕に向けて来る笑顔を見ていると、まあ、いいのかって、そう思えてしまうから不思議だよね。
納得行くようで、何も納得できないけど、なんだろうなあ、この得体の知れないお得感みたいな感覚?
どう言う訳か、聞こえて来る葉山と雪華さんのため息に、一瞬、訳もなく現実の温度を感じて、わからずとも、ちょっと体が震える僕だったよ。