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第20話【ブレイドメーカー 終】

 そんなことを考えていると、ちょっとジトっとした声で、


 「本気で言ってるなら、真壁も相当、イかれてるよね、全部、真壁も命をかけるってのが前提条件なんだから」


 って葉山がいうから、


 「でも、そのおかげで、僕は葉山も助けられたんだよ」


 って即座に言い返してしまった。


 そしたらさ、葉山の奴、ハッとして、僕を見つめるんだ。


 あ、ちょっと嫌な事、かつての葉山自身を思い出させてしまったかもしれないって、思って、ごめんって言おうとしたらなんか目を潤ませて「真壁……」とか言ってる。


 いやあ、もう、泣く事ないじゃんって思って、思わずオタオタしていると、


 「葉山さんが、こうなってるのは、秋先輩が思ってる様な感情からじゃないですよ?」


 って雪華さんに言われるから、なんで雪華さんまで怪訝な表情なのか理解できない。


 なんだろ、よくわからないけど僕、責められてるみたいだから、ちょっとこの人達とは距離を取ろう。そそっと、寄って、思いを巡らす僕なんだけどさ、


 だって、そうじゃん、見た目に結果的にだけど、僕はこの剣出会ってなかたっら、間違いなく、あの時、北海道だって酷いことになってたし、多紫町も救えなかったから、その辺については感謝以外の言葉は見つからないよ。


 確かに、このアキシオンさんを手に入れてから色々あったよ。


 でもそのどれもが、全部アキシオンさんのお陰っていうよりも、その場その場にいた状況や人や、僕自身の判断の結果が今な訳だからね。アキシオンさんがどれだけ優秀で万能だろうと、やっぱり、僕に取って剣なんだよね。


 もちろん、僕に取っては最高の剣だよ。


 これ以外ってのはきっと無いと思うから。


 本当に、スタイル、見た目、持ち心地、全部僕に合ってる。


 まさに僕に誂えた様な剣だよ。


 だから、


 「感謝って言うなら僕の方ですよ、こんな凄い剣をありがとうございます」


 って雪灯さんに告げた。


 本当に、ここまで言ってなかったけど、いつも言おうと、ラボに行くたびに、雪灯さんに会うたびにこんな凄いのタダで持たせてもらってありがとうとは思ってたからさ、今回の事はいい機会だったよ。


 そしたら、雪灯さん、今度は声を上げてワーワーと泣き出したんだ。


 そして、その身を、旦那さんである直人さんや、雪華さんに支えられて泣いてる。


 そんな姿を微水様とかもどこか優しい目で見ていて、とてもいい雰囲気なんだけど、僕にはどうにも、この時のここを納めている感情が理解できなかった。


 そしたらさ、アキシオンさんが言うんだよ。


 「彼女は、ここに研究者としての完結を見たのです」


 そうなんだ、良かったじゃん、って思うと。


 「そうですね、言い方を変えるなら、彼女は研究者としての、【ブレードメーカー】としての人生を終えた、と表現した方がわかりやすいですね」


 なんかその表現、穏やかじゃないなあ、そんな言い方……、って思ってしまった。


 「彼女は、無為なる存在を『剣』と言う形に収めた上に、『真壁秋』と言う最高の実験素材を得て、ここへ辿りつきました、その探究心は今、彼女自身が想像だしにない、まさに至宝の形となって結実したのですから、今後、これ以上の好奇心、探究心を得られるテーマと結果が彼女の前に現れることが無い事を彼女自身が一番よく理解しています」


 そうアキシオンさんは言った。


 僕は、どこか寂しさを感じながら、雪灯さんを見ると、未だ泣いてるけど、家族に包まれる彼女はとても幸せそうに見えたんだ。きっと今までにないくらい。


 「寂しく思う必要などありません、彼女は解放されたのです。最高の形で、一人暗黒の海を彷徨う様な孤独から、研究から、だから、今、彼女はとても満ち足りて、幸せなのですよ」


 アキシオンさんは言うんだよね。そうだよね、意識無意識は別にして、僕なんかよりも長い時をとアキシオンさんと雪灯さんの付き合いは長いんだよね。だからだろうか、次の言葉は、僕以外に向けた初めてのアキシオンさんの言葉になって、これ以降は無い言葉にもなる。


 「お疲れさま、あなたはまごう事無く、『天才』でした、この後も良い人生を……」


 そう呟く様に言うアキシオンさんの言葉は雪灯さんに対しての賛美であると同時に、お別れの言葉だった。


 もちろん、その言葉は、終着の地にたどり着いた研究者に届くことはない、きっと声を届ける事も出来るだろうけど、アキシオンさんはそうはしなかったんだ。


 僕は、雪灯さんがどんな研究をしていたのか、今持ってるアキシオンさんと言う形でしか知らない。


 きっと、この剣をこの形にするまでに至る苦労というか、労力は、才能や努力だけでは成し得なかったと、そう思うんだ。


 家族を犠牲にして、かつて葉山に恨まれて、僕を含む自分の娘にまで嫌な思いをさせてまでの研究の結果は、彼女が無くしていったものの対価として相応しいものだったのか、僕にはわからない。


 ただ、僕は彼女を見ていて思うのは、きっとこういう人って、事の善悪とか超越してしまった所で考えてるんだろうなあって、そのくらいわかるんだ。


 だから、これでお終い、ゴールに辿りついた、って思ってるであろう雪灯さんは、どこか今ままの彼女とは違って見えるんだ。なんていうかな、気楽そう。


 ああ、そうか、軽くなったんだなあ、雪灯さん。


 つまりアキシオンさんは、雪灯さんから、僕の手に。


 ここに【ブレードメーカー】は仕事を終え、完全に完結したんだ。

 




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