第17話【ブレイドメーカー⑤】
その場所は、僕が以前見た鍛冶屋さん、つまり多紫町での『集霧院』とはうって変わって、どちらかというと工場だった。
規模も、そんなに大きくない、普通の工場って感じだと思う。
「ここで、カシナートとか造ってるんだね」
って言ったら、
「そうなのよ、もっと規模を拡張して、生産コストと安全にも気を使いなさいって、言っておいたのに、頑固者だから、私の全くいう事を聞かないのよ」
今僕らは、あのカシナートで有名な『河岸製作所』にお邪魔している。だから雪華さんの家だね。
来てるメンツは、僕に葉山、薫子さんに、多分どこかにいるであろう蒼さん、そして、微水様。その前に、雪華さん家族が歩いている。
普通に仕事してるか、工場内で、大きな微水様ととても目立つものの、やっぱりこの業界では有名らしくて、「本物の初代微水さんかあ……」と、そんな声がまばらに起こってるけど、微水様はまるで気にする様子も無く、物珍しそうに工場内を見ては、時折、「おい、あれはなんだ?」とか雪華さん家族に説明を求めている。
「皆さん、足元にに気をつけてね、もう、本当に安全管理はどうなってるのかしら?」
と僕らに注意を促しつつも不満を言うのは、雪灯さん。雪華さんのお母さんね。
「安全は大丈夫でしょ? お母さんのラボの方がごちゃごちゃしてたじゃない」
と雪華さんが、そんな母親に苦言を呈した。
僕が雪華さんから聞いた話だと、お母さん、雪灯さんね、実はもう既に、大柴マテリアルの人ではないんだって。
あのときというか、経緯の一連の責任を取って、辞職して、というか、本人は直接言葉にはしなけど、一連のマテリアルブレード、今はアキシオンの研究が、完全な形となって結実した。
もう、全部やり切った、くらいの気持ちで、従来ならここからこの研究を発展させ、商品化というか商用化して、会社としての利益追及に切り替えるべきなのではあるけど、雪灯さん曰く、このアキシオンの保つ能力と規模を考えると、
「人類には大きすぎて、誰のポケットにも収まらないわね」
との事で、その後を放棄して、つまり、利益という結果が出なかったという事で、すべての研究は雪灯さんの趣味で終わった、的な感じらしい。
今は、本人曰く専業主婦なのだそうだ。
「雪華と主人には寂しい思いをさせたから、これからは一緒にいるのよ」
とか言ってる。
でも雪華さんに言わせると、「いえ、ただの無職のおばさんです」という話で長年、娘の雪華さんをほっぽって研究に明け暮れていた日々だったので、家事なんてとてもやらせるレベルではなくて、その使えないっぷりは掃除機と冷蔵庫の判別が難しいらしくて、家事などやらせようものなら、何を仕出かすかわからなくて、それならジッとしてもらった方がいいというわけで、日がな一日、どこに行くわけでもなく閉じこもるってわけでもなく、概ね雪華さんのいる時は、雪華さんの後をついてフラフラしているのだそうだ。
「もう、茉薙が二人になったみたい」
というと、
「やめて、雪華、本当の事を言わないで、恥ずかしいじゃない、いやね、ほんとに……」
って、僕らの方を気にしつつも、娘を叱っている。
見た目に雪華さんはご立腹なんだけど、特に雪灯さんに何かを求める訳でもなくて、何より普通に嬉しそうな感じが伝わってくるから、これはこれで良かったのかもなあ、って見ていて思う。
そして、そんな母娘の言い合いを見て、終始笑顔の背の高いおじさんは、直人さん、雪華さんのお父さんで雪灯さんの旦那さんね。
その直人さんは、どういうわけか、茉薙と手を繋いで、この工場内を僕らを案内しながら歩いている。
そして、
「いきなり魔王様に、『お願いがあります』って言われた時は、ついに雪華をもらいに来たのかって、そう思ったよ」
とか、おかしな事を言い出す。
その下の方で、
「やらないぞ」
って茉薙が睨んでるけど、なにを言っているのさっぱりな僕は、
「いえ、あの、剣の話ですよ」
って改めて、その意思を伝える。なんでそんな誤解が生まれたのかなあ。
って、そう思っている僕を見る雪華さんお笑顔がどこかやるせなく感じるのは気のせいだよね?
「遠回しに理詰めて行っても無駄だよ? みんな真壁にはそんな目にあわされてるんだから、好意はきちんと口にしないと、何も通用しないよ、私みたいに」
って勝ち誇った様に葉山が雪華さんに諭すんだけど、一体なんの話なんだか……
そんな関係無い話は他所に、僕らは工場の比較的がランと空いている所に来て、その全体を見渡せつ場所にいて、直人さんは、
「ここに新しいラインを置こうと思う」
と言った。
ラインって、生産する場所の事だよね。
あ、でもどうしよう、なんか話が大きくなってる気がする。僕も『聖剣』の大量生産プランはフワッと、考えていたんだけど、実際に計画が動き出してみると、思った以上に規模が大きい、と言うか、これタダってわけにも行かなよね。