第100話【あれ? いないじゃん、エルダーラミアどこ?】
『鏡界の海』だけで完結してしまう室内の作りで、出入り口は1つしかない。しかも、遭遇できるモンスターって紙ゴーレムとハエじゃなかった、ドラゴンフライくらいだから、この広い水たまりで足場の悪い『鏡界の海』に積極に来る人は少ない。
ただ、この鏡のような水面が生み出す光景が珍しく、北海道ダンジョンに入ったら一度は見ておくべきと言われる、ギルドが選ぶ『北海道ダンジョン100景』のうちの1つに入っているらしくて、しかも階層も浅くて行きやすいことから、度々訪れるダンジョンウォーカーも珍しくはないらしい。
でも、まあ、わざわざ来るようなところでもないのも事実で、概ね1回見たらいいや、って感じだから、リピーターも無く、常に人はいないみたい。なんか、まるでどっかの観光地みたいだよね。
さて、ひとまず、これからどうしようかな、って顔をしている角田さんなんだけど、
「確かに今も、このフロアにいるんだな」
って尋ねる角田さん、以降、角田さんとシリカさんの会話。
「はい、いますです」
「マップには載ってないのか?」
「完全に身を潜めています、テルテル状態ですね、目視は難しいです」
多分、『ステルス』って言いたいんじゃあないかって思う。
「敵は俺たちから隠れているってことなのか?」
さすが角田さんだよ、シリカさんのボケを完全スルーしてキチンとシリカさんの言いたいことを把握して、会話を成り立たせている。
もうすでになかったことになっているんだな、シリカさんの天然なボケ発言。多分、シリカさんのボケを完全にシャットアウトするシリカフィルターとかスキルを持っているんだと思う、僕ならいちいち突っ込んでしまうだろう。
スキルって、物凄数あるから、中にはこんな限定的な対人スキルもあるんだなあ、って感心するのは、僕のボケだよ。
「ええ、そうです、隠れています」
とシリカさんが言うと、
「相手は、エルダーラミアは、俺たちと接触したくないってことなのか?」
と再び考え込む角田さんに、シリカさんは言った。
「いえ、それはないです」
「だって、隠れているんでしょ?」
これは僕。
「はい、視覚的には」
「シリカのノートに書かれていないって事は、完全にステルス状態だろ、なんでいるってわかるんだよ」
と角田さんが珍しくイラっとしながら言うと、シリカさんはケタケタ笑いながら、
「おー、角田、怒るな怒るな、ウケる」
って言ってから、
「これだけ近かったら、さすがにわかるね、私、マッパーです、空間把握能力者ですよ」
続けて、
「確かに姿は見えませんが、これだけの質量が周りの空気をよけてよけてしてるんですから、そのエッヘン(異変と言いたいらしい)には気が付きますです」
って、えっへん、って顔して分反り返っているっていったら言い過ぎなドヤ顔している。そして、
「さっきから、ずーっと、私たちの後ろをついて来てますよ、安心です、つかづ離れずです」
ちょっと間が開いた。シーンってなった。
「え?」
「はあああああああああああ?」
「?!」
最初のは僕、次が角田さん、そして最後は春夏さん。
この時、みんなの気持ちは一緒だったと思う。