第13話【ダンジョンモデュールを作った人】
現在、北海道ダンジョンでは、大いなる問題、様々な意見が出され初めていた。
中でも顕著なのは、もっとこのダンジョンを厳しくってもので、確かにこのダンジョンは緩いよなあ、ってのはある。
だから、その辺からなんとかしないと。
その一つとして、今から、もっとダンジョン的に厳しくして、対応するダンジョンウォーカーの能力の格上げを図ろうかなあ、なんて、ただただ、漠然と考えていた僕らだったんだけど、
「敵であるモンスターを強くしてみるって事?」
と、質問が入った。
結構怪訝な言い方。厳しいって言うか、攻撃的。
いつもニコニコしてる人のこういった言い方するのって怖いよね。
あの後、僕らは、深札幌の今は魔王の根城と言われている、今日から新会議室となって、札幌市街地には珍しい、木造建築物、『時計台』の本会議場で頭を悩ませていた。
今、質問をしたのは、木下 譲二君。
最初に、彼がまず、誰かって話。
彼は、このダンジョンの僕らより以前からいる運営側で、最近、魔王側に入ってくれて色々協力してくれている。
と言うか、ダンジョン管理条、運営してる側は全部、魔王側って認識でいいと言う話になってる。
真希さんとティアマトさんが言い出したんだけど、せっかく魔王様がいることだし、特にティアマトさんとキリカさんの意見具申がひどかった。
そして、その後キリカさんが、「で、殿下、いつ私はは侍らされるんでしょ? ハーレム建築は何時でしょう? こちらの言い方ですと、『大奥』ですか?」などと言う謎の質問をした後に、葉山に『しっし』ってされてた。
ちょっと話逸れた。
で、木下くんの話ね。
このダンジョンで行なってることは、すべてのモンスターの統括管理と各階層での
『ジョージ』をやっている。
あの浅階層のジョージとか中階層のジョージは、すべてこの木下くんなんだよ。
自らアンデット化して、細かくすべてのダンジョンウォーカーに対戦してくれている。
ちなみに、木下くん分化で、なんでも同時に20体はいけるらしくて、つまり僕もかつてはお世話になった訳だよ。というか、このダンジョンで中階層以下に行ってる人なら、必ず一度は対戦している人物ってことになる。
彼曰く、
「君の技能に、あの剣は反則だよ、しかも忘れている事にして、本来、一生に一度の対戦を二回やってるのは後にも先にも君だけだよ」
って言われて、思わず恐縮してしまった。本当になんというか、ひとまずごめんなさいだ。
しかも、このダンジョンにいる概ねすべてのモンスターの基本デザインをしてるのも彼の仕事なんだ。
だから、このダンジョンの中身の仕様ってのは、彼一人で造り上げた形ってことなんだね。
僕らとは歳は変わらないように見えるけど、実年齢は、きっと真希さんと同じクラスで、母さんよりは年上って事。確か享年16歳って言ってた。
姿は死んだ時のままって、言ってたから、普通に白いシャツに学校のスラックス、当時は坊ちゃん刈りって普通だったんだろうか? って感じの髪型。
顔立ちも上品そうで、いつもニコニコしている印象。
今も現状、アンデットだから顔色は悪いけど、でも元気そう。
若干だけど、各階層のジョージの面影があるっちゃいやある。
……目元とか?。後、髪型とかかな。
だから、その事実を知った時は、僕を含めて葉山もみんな、木下君の顔を見て、「ああ!」とはなった。納得いった。
よく聞けばあの声も似てるし、喋る方も似てるかもしれないって思えたんだ。
何よりも驚かされた事実は、木下くんこそがこのダンジョンの唯一の死者。ここで力尽きた人だった。
僕も最近知ったんだけど、この木下君こそが、唯一の北海道ダンジョンでの行方不明者であり、このダンジョンで、お亡くなりになった、珍しい例らしい。
彼の両親は健在で、このダンジョンで行方不明になっている事実は把握しているものの、その死を知らないでいるから、未だ彼の戸籍は残されていて、行方不明扱いなのだそうだ。
そんな珍しい経歴の持ち主で、しかも変わっいてこのダンジョンにとっては有用な趣味を持ってる人だったから、こんな形になってしまっている今、とても幸せを感じているらしい。
まさに人生の目標を達成していると言ってもいい。夢が叶った的な心境だそうだ。
と、言うのも彼は無類のモンスター好きで、物心つくく前から、ヒーローではなくて、怪人を応援する人。
グロテスクな見た目とか、耳を覆いたくなる様な声とか、暗がりに潜む習性とか、如何しようも無い卑怯者とか、いつまでたっても結局勝てない、そんなモンスター達を愛して止まなくて、その心境は応援するどころか、いつの日か出来れば自分も、ヒーローに倒してもらいたい。雑魚モンスターでもいいから、蹴散らされる側に立ちたいと言う、稀有な精神の持ち主だった。
木下くんは明るく語るけど、彼自身の生い立ちは壮絶なもので、物心ついた日からズッと明日をも知れぬ命って病に侵され、一年に何度も手術して、って言う人生だった。
彼は、この大通公園近くの病院に生まれてからこの年齢になるまで入院していたそうなんだ。
いつも病院のベッドの上で、大好きな本を読んでいて、思いを馳せていた。大のファンタジー好きというより、モンスター好きな人。