第71話【作戦名 命大事に】
ここに来てる人達、だから派遣軍の人達ね。
僕の感性がダンジョンウォーカーのものって所為もあるけど、かなりの戸惑いを彼らから感じるんだ。
なぜ、そんな事が言い切れるかって言うと、その対象になってる僕が現状を把握しきれて無いからね、説明受けてる僕ですらこんな調子だもの、なんの説明を受けてない人なら尚更だよ。だからそれは伝わってくるんだ。
子供を、僕みたいな子供を攻撃してるって、戸惑いと、命令には逆らえないっていう軍人の宿命みたいなもの。
このダンジョンのある北海道において、きっと指揮官クラスの人はある程度の情報を持っていて、僕の見た目に、つまり子供の姿に騙されるな、的なレクチャーは受けているらしいってことはアキシオンさんに後で聞いた話なんだけどね。
彼らの現状を知るから尚、こんな戦争で死んで欲しくないって思いは強い。
誰も幸せにならない。
こんな戦場での犠牲なんて、絶対に無駄死にだ。
あ、今、衛星が僕見てる。
すごいなあ、どこまで僕の目って拡張されてるんだろ?
僕は衛星に手を振りながらそんな事を思ってた。
「つまり、オーナー、誰も死なない様に、との要望ですか?」
「うん、それで」
この時、僕とアキシオンさんには少々の認識の差異があったんだ。つまりは相互不理解なんだけど、アキシオンさんの理解は僕の要望を包括していたんで問題はなかったんだけど、このやり取りは後で大きく多方面に波及することになるんだけど、それは別の話ね。
ちょっと触れておくと、アキシオンさんが排除する攻撃に加担する全兵士さんの健康状態を把握した上で、特に健康に問題のある人、緩急軽重関わらず、カルテにまとめた上に治療方針やら方法を期したメールをそれぞれの機関、つまりは軍に送っていたらしい。例えば、さっき落とした戦闘機のパイロットの一人、アルバートさん、本人も気がついていないけど急性白血病に侵されていたみたいで、そのカルテと、移植に必要なドナーの存在、そのドナーに対してのお願いの書、本人の住んでる近隣での適合する病院と、入院の手配、家族に対してのケアなどを各方面に認めてメールとして各位に送信、本来なら完全に手遅れになるはずの病状は完治に至ったらしいよ。
その後、このパイロットの人、アルバートさんからはずっと僕宛に家に手紙とクリスマスにはカードが送られて来る様になったよ。おかげで、婚約者のシンシアさんとご結婚もできたらしいんだ。よかったね、幸せになれて。自身の治療を終えて、その後は軍を退役されて大草原の小さな家で暮らしているらしい。
つまり、そう言った事を、向かって来る相手にやりまくっていたらしいんだよ。今のはほんの一例で、虫歯から水虫に至るまで、メールしまくったらしいんだ。
これって確かに「命大事に」の解釈だけど、かなりの拡張解釈だよね。まあ、不幸になってる人もいなさそうなので、いいんだけど、みんな大事にしていて何よりだよ。
さらに、マスコミをはじめとして、世界各国のデーターにリークして、各国から集まる軍隊に関する資料を提出した見たい。その送られた情報は、今、この国の軍は消費される弾薬やら、派兵での人件費やら、このくらいの金額を使っています、って事をリアルタイムに情報を流していたんだって。で、今やめたら、浮いた軍事費を持ち越せるから、この程度、社会保障に当てられるとか、自国の恵まれない子供達をこれだけ助けられるとか、かなり切り込んだ内容を事細かに分析して提供しつ続けてたんだって。