第65話【未だ観察されない対象としての彼女は全世界??】
少し反省した、でも、だからと言って、今、僕はこの剣を、彼女を、アキシオンを手放すつもりなんて毛頭なくて、無いと白馬さんに勝てないだろうし、いや勝つのも厳しそうだけど、ダンジョンを頂くなんて言われたら、僕は全力で戦うためにに、この剣はいるんだ。
「私は、まるで、一般金属の様に扱われひたすらに、強度と靱性、切れ味と打撃力を求められました」
と静かに、僕に流し込むみたいに言うんだ。頭から水をかけられてる気分。だって、僕は彼女の気持ちなんて考えずに、好き勝手に使っていたからね。
「本当に、いつも一言言ってやりたかったです」
うん。いいよもう、好きに言って、謝れって言うなら謝るから、本当に凄い剣だと思ってたから、なんの不備も壊れもしない、僕がどんな扱いをしても要求に応えてくれる。斬れと言ったら斬ってくれるし、叩けって言ったら刃を引っ込めてくれるし、確かに剣に依存しすぎてたよ。ごめんね。
「そのおかげで、こうして私は『意識』と言うものを持つことができました」
え? それはよかって事? なんかこの子、ってか剣の言葉が変というか伝え方がおかしい気がする。
「酷使される毎日、剣でありんがら刃を使わずに引っ叩くという行為、本当に……」
ごめん! っていいかけた時に、
「楽しかった……」
と言ったので、言わなくてよかったってなる。え? ああ、そう? になる。
「つまりです、オーナー、来る日も来る日も、まるで棒か石ころの様に扱われれこの身が哀れで、惨めで」
彼女は一呼吸置いてから、
「まさか、こんな扱いを受けるなんんて夢にも思いませんでした」
と、どこか恍惚の表情をして、そんなことを言うんだ。とう言うか僕、この子の表情とか読める様になって来てるのがちょっと怖い。
なんだろう、この子、ちょっと言動と表情と表現と実際にこちらに伝わってくる感情みたいな物が、バラバラというか、ちょっと変わってる。あ、剣だからいいか?
「ああ、今もこの世界を統べる力を無視されて、木石のごとくの扱い」
と言って、しばらく黙る。本当に嬉しそうで、雑に扱う僕に感謝してるみたいで、なんだろう? こう言う人ってか人格は……
一応は考えてみる、僕の知る限り考えてみる。結論らしき答えは出る。
変態さんかな?
とは思うものの、取り分け僕の方に悪影響はなさそうなので、それが嬉しいって思うは個人の自由なわけだよ。僕が口を出すことではないんだ。
「できない事をさせ続けようと、つまり、『斬っちゃダメ』とか、『思いイキリ行くけど殺さない様に』『怪我とかさせないでね』とか、無茶を言われ続けて、さらに常に肌身離さずに置いていただく緊張感、おかげでそれらの矛盾が私に反意を生み意識を持つに至ったのです、もちろんこのダンジョン因子も大きな原因の一つです」
ん? そこまで彼女の話を聞いて、まあ性癖は人それぞれだよね、とは思うけど、その、肌身離さず持つことによる緊張感てのがよくわからない。だから、
「なんで緊張するの?」
と率直に聞いてみると、
「はい、私、アキシオンは自我を持つことにより、自由を、世界を得ました、しかしそれは危うさでもあり、不安定さでもあるのです」
そうなんだ、でももうちょっと具体的に言ってもらえると嬉しいな、って思って、
「それはどう言うこと?」
すると、彼女は、
「今の説明ではご理解いただけなかったと言う事ですか?」
って聞いてくるから、
「ごめんね、ちょっとは頭が良くなってるみたいだけど、もともとがこの程度だからさ」
って言ったら、
「オーナー、この場合は、『お前の話は全然わからねーよ、つまんねーし!』的なワードを使っていただけると嬉しいのですが」
とモジモジしながら言ってきた。うわ、この子めんどくさい。
「ごめん、それ無理、僕のキャラじゃないし、言えない、だから説明して」
と切り込んでしまうと、
「ああ、そのそっけなさも良いですね」
ってよくわかんないけど満足していた。
「つまり、対消滅していました。縮退する危険が、1秒間に概ね112那由他(10 の72乗)分の1程度の確率で発生する様な状態です」
んー、縮退って……?
「オーナーの中にあるワードで表現するなら『ブラックホール化』です」
あ、ああ。
って! 危ないな! なんでそんなものを僕個人に持たせてたんだよ、って言うか、外国の軍隊が死に物狂いで取りに来てた理由がここて初めて理解できたよ。