第63話【斬られた僕、対話を求める剣】
確実に斬られたなあ……
その自覚はある。その時を過ごした記憶も体験もある。
でも、ここは、その斬られた場所じゃなかった。
気がついたら、変な世界。
異世界か?
いや違う感じ、もっと閉じた世界な気がする。
一応四角四面な感じの部屋なんだけどさ、飾りっ気も何もなくて、本当にどこかに切り取られた空間な感じがする。
凸凹な感じで、箱っぽい長いのも短いのも不規則に並んでる感じ。
以前にもこんな事ってあったっけ?
ああ、そうだ、あの時の、春夏さんに初めて会った時の感覚に似ている。
感覚的には同じかもって思うけど、この空間の方はもっとカクカクしてる。なんというか、以前僕が体感した不思議空間に比べて、こちらの方は優しさが無いというか、面と線が痛そう。
だから、きっと僕はここに呼び出されたんだって、思って、そんな事をした人を探す。
確信はあるんだ、だって、僕、今剣を持ってない。
でも、剣を置いて来た、とか、無くしてしまったって喪失感がまるでないんだ。
と言うか、今もいる。常にあるって言うのがわかる。
そして、そう考える事が一番答えに近かった。
なんの予備動作も、準備もなく、僕の目の前に、……女の子、かな……、これ?
しかも中空に浮いてるし、随分、カクカクした子だね。昔のポリゴン見たいな感じで、エッジが効いてる。
何より無言のままその目らしいところがじっと僕の顔を見ている。
何か話かけたほうがいいんだろうか?
でも、なんか言いたそうにしてるし、ちょっと待つ? 大丈夫かな白馬さん。
どうも僕死んでる感じじゃないし、彼の目の前から消えてしまっていたら、ちょっと申し訳ない気がしたんだ。
「血液の成分って知ってる?」
いきなりそんな事を聞いてくるからびっくりする。けど、僕はこの語らいを知ってる。うん、わかる。
「今、戦ってる最中なんだけど、ここにいてもいいのかな?」
「様々な血球があって、でも、それは何一つ役には立たないの」
「白馬さん、僕が急に消えてびっくりしてないかな?」
「どんな性能を持って、どんな役に立つ成分でも、流れに乗らないと意味がないわ」
「葉山とかも心配してるだろうし」
「有益無益にかかわらず、全ての物質には溶媒が必要なの」
「この話長くなる? 出来ればすぐに帰って続きをしないといけないんだけど」
「つまり世界は確たる物質とそうでない物によってできている」
どうあってもこっちの都合を聞く気は無いみたい。
仕方ないから端的に尋ねる、と言うか、聞いてみる。でもタイミング悪く、
「私は……」
「君、僕の剣だよね」
二つの言葉が重なる。
ちょっと気まずい雰囲気、でも、急いでるから仕方ない。
「初めまして、我が所有者、真壁秋様」
と言う顔はとてもカクカクしていた。あ、でも可愛いよ、きっとそう言う風にしているんだと思うから。
ひとまず挨拶してくれたけど、
「前に、一回、多紫町で話しかけてくれたよね?」
いつも持ってる剣だけど、それでもこうして話すのは二度目だから、一応初対面って感じがない。
荒いポリゴンの表情はちょっと読みにくいけど、
「私がこうしてオーナーに話しかけるのは初めてになります」
そっか、あの時、自分を説明してくれたのは、うっかりって事で前のはなかったことにしたいんだね、わかった。OKだよ。
ここは話を合わせておこうと思ったんだ。だって、どうやら助けてくれそうだし、そんな剣を邪険にしてしまうのも剣呑な感じだよ。
一回深呼吸して、
「き、君、話ができるの?」
って、こんな感じで合わせてみた。
あ、手を活発に振り出したぞ、喜びは隠しきれないみたい。
「意識はありました、あとはあなたがこの事象をどう受け止めるか次第です」
僕現実主義者だから、そのまま受け止めるよ。いいよ剣喋っても、だから、
「わかった、君は喋る剣って事だね」
どうやら僕の言い方と言うか伝え方は、彼女(?)の気高い意識をけなしてしまった様だ、ポリゴンの顔がわかりやすく怒ってる。
「えーっと……」
困ったぞ。
何が彼女のプライドを傷つけてしまったのか皆目見当がつかない。
本当に、こう言う時は、葉山とかいてくれないことが悔やまれる。全く対応できない。
「こうして、女性の型を取って出てきたんです、もっと喜んでくれてもいいのでは?」
ああ、そうなんだ、この姿って僕の為だったんだね。ごめんね、全く気がつかなっかったよ。
「ダンジョンは女性型として、オーナーとはコンセンサスを取っていました、種別としては恋愛感情です、私もその様になる為にこの様に努力をしています、認めてください」
一生懸命って事だよね?
うん、もちろん、そうだね。