第61話【引けない戦い】
もちろん、怒ってる訳じゃない、僕はいたって冷静に冷静に側から見るとおかしな事を言ってる。だから自分を客観視すると、「何言ってるんだこいつ?」ってなる。
いや、ダメじゃん。そんなことを言ってたら、僕、世界の全てを敵に回しても北海道ダンジョンは渡さないって言ってる様なものじゃん。
いや、言ってるけどさ、そう思うけど、一応は穏便にその辺は「そうかも」くらいは言おうとは思ってたんだよね。
「そうか、なら仕方ない、お前の屍を超えて行くぞ」
と白馬さんは大剣型マテリアルソードを構える。
戦闘不可避だね、仕方ない、でも北海道ダンジョンだもんね、それ以外なら良かったのにね、北海道ダンジョン以外全部って言うなら、僕は勝手にどうぞって言えたのに、よりにもよって、北海道ダンジョンを欲しがるなら、僕は対立する軸から引くわけには行かない。
「ごめんね、待たせた、状況は見てたから」
と僕のそばに駆け寄る葉山だよ。
「いいよ、ここは僕だけで、」
「聞いてたてよ、無理でしょ一人じゃ」
とか言う葉山。
でも葉山もマテリアルソードで数的には勝つけど、単一質量の関係で、この構図でも僕らは白馬さんのマテリアルソードの武器的優位性はひっくり返らない。
僕にとって、それはどんなことを意味するのかわからない。
ざっくりと僕に取って不利? ぐらいしかないなあ。
でも今の僕の戦力に葉山を足してもそれはこの状況をひっくり返すことにはならないと、それだけはわかるんだ。
ん? なんでわかるんだろ?
「ほら、秋先輩、ピンチよ、絶対絶命よ、どうするの? ねえ、どうするの?」
なんか雪華さんのお母さん、雪灯さん、すごい浮ついたテンションで、僕に向かって言ってくるんだ。
「もう如何しようも無いわね、これは勝てないわね」
ってすごい嬉しそうなんだけど、どうしてか、僕はその言葉は僕に向かっている様な気がしなかった。
「いい加減にして、母さんは秋先輩が負けるこんな状況を作りたかったの?」
怒る雪華さんにそのものっていう質問をされる雪灯さんは
「ふぇ?」っておかしな返事をしているくらい感情の揺れが激しい。本当に天国への階段を見つけたみたいな、至高の喜びに満ちている。
ダメだね、アレはもう、ってこっちも見ていてわかるくらいだから、雪華さんも諦めてた。だから、
「私も参戦します、3対1なら……」
「いや、4対1だ」
と僕の背後で蒼さんが積極的に前に出て来て言う。
その時だった。
僕の頭に悲鳴にも似た、今までかつて聞いたことの無い音が鳴る。
僕は一瞬、自分の手の中にある剣を覗き見てしまうんだ。
ああ、そっか。そうだね。
僕は、意識とかではなくて、割と直感に近いところに警告を与えてくれた剣の意思を知った。
そして、何より、
「これ、王の一騎打ちでしょ?」
っと参戦希望者にいうと、
「私なら介入できるわよ、同盟って形で」
「そしたら、この周りに集まってくれてる多国籍軍の人たちも介入できちゃうんじゃ無いの?」
つまりは一騎打ちの形は壊れてしまう、つまりは他国の侵入を許してしまうと言うのは、そういうのは流れになるはず、だよね?
「でも、混戦になれば!」
って葉山は食い下がるけど、
「ダメだよ、これは僕の戦いだから」
そうなんだよな、僕が勝手にやりだしたことだから、葉山とかを巻き込むわけにいかない。まして、その理由がダンジョンなら尚更じゃん。
ここは僕一人でいい。
これは僕の私闘て、僕の意地で、僕の野望的な希望で欲望。
そこに他の人を入れていいわけがない。
決してそれは、消極的な理由なんかじゃない。
ここは、このダンジョンの為にだけは、僕は本気にならないといけないんだ。
何かあっても、もう、これ以上、どこをどうして手放して良い訳が無いんだよ。
それでも僕の後ろでギャーギャーと騒いでる葉山を見て、
「たいした人気だな、真壁」
と落ち着いた表情で、そんなことをいう白馬さん。
そして、
「俺は、この計画をいったところ、フラれたぞ」
とどこか照れ臭そうに言った。
多分、三爪さんの事を言ってるのかな? いや、あれ、もう恋人のフリって言ってたじゃん。
でも、
「え? 真面目にですか?」
って思わず聞いてしまうと、
「ああ、手伝ってくれるか? と尋ねたら、「無理」だと、にべもなくフラれたよ」
とお気楽に笑ってる。三爪さんて、あの多紫町でちょっと気になったけど割と現実主義者な面があるみたいだから、ロマンとか男の夢とか野望には乗ってこないのはなんとなく納得できる。