第58話【混ぜて飲み干す王達の宴】
以前、僕は白馬さんと戦ったことがある。
でも、それは彼が本気でなかったこと、そして、こっちもその戦い自体が本位でなかった事などがあって、結構グダグダな結果になった。
つまり、僕と白馬さんが本気で戦うのはこれが初めてだって事だ。
そして、残念な事に、この王の一騎打ちという特殊な戦いにおいて、僕に負ける要素がまるでないんだ。
技能的には普通に強いと思われる白馬さんが僕を倒せるとは思えない。
自惚れてるわけじゃないけど、僕にもそれなりの経験とかあるからさ、そのくらいの事はわかるよ。
それに武器だってある。
僕の武器はかなり特殊で、普通に相手の武器すら斬り裂ける。
それを知らない白馬さんじゃないのにな、って思うと不思議だった。
以前、角田さんが言っていた、『軍人ってのはリアリストなんです、負けが決まってるような戦はしませんよ』って言葉。
僕もその通りだって思ってから、こんな風に、しかも味方も付けないで挑んでくるなんて思わなかった。
「いえ、あなたの優位性はないんですよ」
ってディアボロくんが、さっきの公園の噴水の所から戻ってきて、そんな事を言った。
そして、その言葉をどこか自信ありげに聞いてる白馬さん。
「なあ、真壁、俺はこのダンジョンにおいて、お前が頂点だと思ってる」
うーんどうかな、真希さんもいるからなあ。
って思うけど、
「ギルド長がいると思っているなら、彼女はもうすでにダンジョンの一部だ、しかもダンジョンウォーカーすらでもない、あちら側の人類だ外していい」
とか言われるけど、普通に戦えるから、その辺は度外視ってわけにもいかない。
あ、でも今の時点で、真希さんは確かに外、ダンジョンから出れないから、そうかもって考えを改めて見る。
そっか、だから白馬さんはダンジョンに入ってこなかったんだな、とも思った。
「そして、思うが、お前以上は無い」
とも言う。
「まあ、そうかもね」
と言いつつ、状況にもよるんじゃ無いかなって思う。
なんか狙ってるなあ、って思う、ここに葉山とかいてくれたら探れるんだけどなあ、蒼さんは蒼さんで、あっちの二肩さんと忙しいみたいだし。
ともかくだよ。北海度ダンジョンは渡せないから、この戦いは不可避なんだよ。
「なあ、真壁」
って白馬さんがまた声をかけてくる。
「何?」
「組まないか?」
とか言ってくる。
「無いでしょ」
って僕、だって北海道ダンジョンを誰かに譲るつもりなんてないから。
「だよな」
って白馬さんが言う。なんとなくだけど、あの時二人で歩いた多紫町を思い出してしまうから困る。
「ねえ、どうしても戦わないとダメなの?」
「ああ、そうだ、その為の王の一騎打ちだろ?」
「僕は特に三柱神に指定されてる訳じゃないから、ここは遠慮もできるんだよ」
って言ったら、
「何を言う、お前は紛い物の神じゃなくて、本物の全知全能者に王を指名されてるんだ、これ以上のこのダンジョンにふさわしい王なんていないだろ」
って言われてしまった。
そうなんだ。って納得してしまう僕がいる。
「ここでいいか?」
白馬さんが聞いてきた。つまり戦いはこの場所でやるのかって事。
断る理由もないから、「いいよ」って僕は言った。すると、
「じゃあ、混ぜますね、公平を期すために混沌の名おいて、僕が出来る唯一の事をします」
って僕と白馬さんが向かい合うその真ん中に入って、ディアボロくんが言うんだよ。
混ぜる?
何を?
って思った。
そして、それはかつて、僕が経験した現象で、奇跡で神様な春夏さんが行った行為。
いや、でも、記憶とかを混ぜてどうすんだ? って思ってると、
「混ぜるのは技能です、白馬の技能と、あなたの技能を混ぜます」
とか言い出す。
?????
「わからないか?」
って白馬さんに言われるんだけど、さっぱり理解できない僕は、
「何をするつもりなんだ?」
「貴様の技術を貰うんだ、混ぜて、俺の体に染み渡す」
「何言ってるの?」
って聞いてみる。
「俺にはスキルとかはない、だが、この俺の運動能力を支える多数の筋肉は、文字通り、記憶し、刻み込む、鍛えても育つ事はない、しかしトレスされるなら全てを飲み込むぞ」
と言った。
いや、本当に何を言って言うのだろう?
「俺はな、真壁、かつてスキルの移植を研究してきた機関の、唯一の成功例なんだ」
僕は、初めて会った時にの、あの葉山を凝視する白馬さんの目を思い出していた。
「そして、この筋肉には『記憶する』と言うスキルだけが宿っている、だからお前を頂くぞ、真壁秋」
白馬さんがそう言った時には僕と白馬さんの技能というか経験が混ざり初めていた。
僕は一瞬、白馬さんの記憶を追体験する。混ぜるんだから、当然、僕の技能が白馬さんに入るように白馬さんの技能が、その経験が僕に入ってくる。
それは、まさに血の匂いがした。
刻まれる体、固くなる緊張と痛みに耐える体。
なんか、もう吐きそうになる。
「なんだ、真壁、俺の経験を感じて嘔吐なんて少し失礼じゃないか?」
と言ってから、
「お前の経験もなかなかだぞ、普通なら何度も死んでるな」
っと若干青ざめた顔して白馬さんは言うんだ。
そして、これは一瞬の出来事。
再び僕らは何事もなかったように向かい合った。
僕らは互いに経験に関する技能を分けあい、そして共有したんだ。
にわかに信じがたいことではあるけど、しかし……。
僕は、ここで以前、同じ事をしているから、春夏さんとは出来たから、
そう思う僕は白馬さんの「行くぞ、真壁!」って言葉を聞き逃していた。
彼の持つ自動小銃から銃弾が飛び散り始める。
当たっても平気、だからじゃないけど数発足を掠った。
このジャージなら平気、そのまま白馬さん僕に接近するんだけど、もうその動きが、母さんの下位互換なんだよ、うわ、ブレブレじゃん。
しかも自信満々が痛い。
いつも僕ってこんな感じ?
普通に真似されて、「いや、僕、絶対こんなんじゃないよ!」って否定するけど、周りから見たらこんな感じ?
これはあれかな?
恥ずかしさを助長する精神攻撃なのかな?
母さんから見たら、僕の動きってこんな感じなんだ。
そりゃあ、怒られる訳だよ。
で、未だ加減されてるのがわかった。
それに、これって、自分の動きだよね、ならわかるなあ、次の攻撃。
だからそのまま受ける。
「流石に自分の攻撃は受けないな」
って言ってくるから、
「まあ、そうだね」
って言って流しておいた。よかったよ、意識まで雑んなくて、今僕が、母さん目線で僕の動きを外から見てそれなりにできてるなんて思い上がっていた事をおもい知らされて、ショックを受けてるだなんて、知られたくはないからね。
そして、白馬さん、
「すごいな、貴様の技能、これなら有頂天になって女子はべらせて、いい気になっていられるもんだな」
痛い痛い痛い痛い。
僕そんな事考えてないから、してないから! 思ってもないから!
「確かにこれなら、世界すら思いのままにできるな、思い上がり続けられるな」
今までに見たことのない白馬さんのすっごい笑顔。
ないから、これただの一般技能だからか、身についてしまえば普通だから。