海沿いのレストラン「海王」
湾岸の、岸辺ギリギリまで建物が建っている街。
白い石造りの家々が立ち並び、南国の赤鬼灯が気まぐれかのように咲いている。
透明感のあるエメラルドブルーの海には、だいぶ光の網がかかっていて。
「人魚でもいそうだね」と観光客が話しかけてきた。
「いても出しませんよ」とウエイターの僕が冗談めかして言うと、客は笑った。
湾岸すれすれレストランのウエイター、それが僕の仕事。
今日も最高のおもてなしをいつも通り当然に行った、と思う。
そんな閉店間際・・・
ラストオーダー前に現れたのは大きなシャツを着た美女。
店主が気に入っている娘で、多分恋人関係なんだろう、と思った。
いつもの岸辺すれすれの席に座り、店主を話し相手に料理と酒をいただく彼女。
実はちょっと気になっている。
端々に聞くに、気になる彼女の放った単語は・・・
「トリトン」「ネプチューン」「セイレーン」「組合連盟の崩壊の危機」
店が閉店時間になって、彼女は店の出入り口から去った。
「店主、あの子って恋人さんなんじゃないんですか?」
「そしたら帰り道おくっていくだろうに」
「・・・え?じゃあ、なに?」
「秘密だ。後片付けよろしくな」
「はい・・・」
「はぁ~・・・まったく、人魚が見つかったからって、なんだっての」
店主のつぶやきに二度見をした僕に気づかず、店主は帰り支度。
結局あの大きなシャツを着た美女が、何者なのか未だ分からない。
行方不明になった妹に顔が少し似ている彼女が、やっぱり気になる。