茶屋で働いているはずの姉
待ち合わせに指定されたのは、存在は知っていたが初めて入る茶屋。
陽の入り方が素敵で、風情があるな、とひとりごちる。
出窓からは隣接している敷地内の池に魚影があって、なかなかおおぶりもいる。
茶屋の中は組子細工の壁と屏風で仕切ってある。
日の光に、組子細工の影が斜めに落ちていて面白いし美しい。
「なにをそんなに、ひとりで楽しんでいるの?」
現れたのは待ち人、この茶屋に勤める私の姉である。
「仕切られているし、いつもの挨拶をしても大丈夫かな?」
何度も小さくもうなずく、姉。
「・・・イェイ、イェイ、イェイ、トゥッ」
手や腕を弾け組んだ里の挨拶をして、ふたりで笑い合う。
高級な衣を着ている、姉。
いわゆる姉は、『美女』の類いでここで春を売っていると両親に聞いている。
どんな感じの仕事をしているのかと聞きそうになってしまうのが自分的恐れ。
他意や悪意はない。
少々の興味はあるけれど、きっとどんな仕事をしていたのか聞かない。
「約束通り、店をやめてもいいって」
「これからは一緒に暮らせるね」
姉は深いため息を吐いて、卓に置かれた急須からお茶を淹れてくれた。
「やっと解放かぁ・・・」
「ご苦労さんです」
「火山の中に向かってホウキに乗ったカムロが突っ込んだ時は、さすがに慌てたわ」
「なんの話をしているの?」
「そのあとウィーザードボードであちきも飛び込んで」
「姉やん、なんの仕事をしていたの?」
「そんなん秘密やろ」
姉は椀に注いだ茶を飲んで一息ついて、「お話の続きは一生秘密や」と言った。