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神の声は聴こえない! ポンコツ巫女の私がこの手でひらく未来は   作者: 松ノ木るな
第十一章 恋心

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⑥ 亡霊パニック

 その夜ナツヒはまた夢の中、“彼女”と共にいる。

「そう落ち込むな。きっとユウナギは日頃から、おぬしに感謝しておるぞ」

「お前たち揃いも揃ってなんなんだ」

 ナツヒは絶えずせっつかれている気分に陥り、女性が苦手になりかけている。元々得意なものでもないが。


「本当じゃぞ? 巫女は人が見なすほど己を特別とは思わぬ。その証拠に、ユウナギはおぬしに嫌われたと幾日も悩んでおったぞ」

「あ? なんでお前がそんなこと分かるんだ?」

「私には何でもお見通しなのじゃ! 私の力はおぬしですら、認めることができるじゃろ?」

「ああそうだな」

 夢枕に立たれているのだから疑いようもない。


「事実、巫女はみな同じようなことを悩むのじゃ。本当はただ人に愛されたい、ただの人として」

 ただの人であるナツヒには、理解し得ない心情だろう。


「しかし私なぞ神に愛されすぎて、いつも人に愛されぬよう身体にたくさんの印が刻まれる」

「しるし?」

「見せることはできぬが。今は肉体がないでのう」

「別にいい」


「私は何度生まれ変わろうとも巫女を職とするものと、もはや諦めておる。大いなる力というものの源は、“嫉妬”ではないかと思うておるほどじゃ」

 神はそんな下世話なものなのか、とナツヒは訝しむ。


「おぬしはそう見下すものかもしれぬが、神はわざわざ、生きものにもそういった感情をお与えになった。争いの元になるのは避けられぬのに。なぜじゃろうな?」

 やはり彼には口出しのできない話だった。



 夜もさらに更けた頃。

「!?」

 まだ暗いうちに目を覚ましたら、ナツヒは自身に覆い被さる不穏な陰を感じた。その影はどんどん膨らんでいくようだ。確かにそれは見えている。

 彼はすぐ横に置いてある(ほこ)を手にし、それに向かって振りかぶった。するとその黒いものは消え去った。


「なんだったんだ今のは……」

 ただ思い至る、もしかしたらアオイが見たのも同じものかもしれないと。



 それからだった。毎晩毎晩、いびつな陰がナツヒに襲い掛かった。

 彼はかつてないほどに惑う。戦おうにも実体がない。必死で逃げる、体力が尽きとうとう捕まる、声を上げる。それがすなわち目覚め。


 そう、どうしても彼は真夜中に目覚めてしまうのだ。代わりに昼間眠っているようになった。それではいけないと、もう国に帰ろうと思った。しかし手ぶらで帰るわけにはいかず。同盟を結ぶ旨の書状なりを、王より受け取らねばならないが、彼からそういった言はまだない。王はどうやらこの頃、内政業務に追い立てられていて、その時間以外は寝て過ごしているという。

 ナツヒの部下の兵らは、海という目にしたことのない大自然に、また海の幸に酔いしれる日々を過ごしている。そこはまるで束の間の休息の場だ。ナツヒは自分だけ悪夢をみているのかと苦慮していた。



「ふむ。亡霊じゃな」

 やっぱりそうなのか、と彼は肩を落とした。


「悪霊は直接手を掛けるものではない」

「でも“殺される!”って思うんだ。どんなに逃げても追いかけてきて」

「そしてじわじわ疲弊する。それが祟りの恐ろしいところじゃな。おぬし、こう思うておるのじゃろう? どうせ敵うわけない。敵は抗えぬ未知の力だから。そう怯えておるから、より大きく見えるのじゃ。見えているものが真実の姿とは限らぬ」


「そんなこと言われても。俺は鉾を振りかぶるが、敵に当たる感触がない。戦えないのに襲い掛かってくる、振り払わずにいられない」

「しっかり憑りつかれておるのう。そのまま国に連れては帰るなよ」

 彼は真剣に悩んでいるのに、茶化されているようで腹立たしい。今すぐにでも帰りたい。


「おぬしの考え、更にはこうじゃろ? 別に亡霊退治なぞ己の仕事ではない、地縛霊なら自分はここを離れれば、それ以上関わることもない」

 ナツヒとしては、だってこれ俺の仕事じゃねえし、としか言いようがなく。


「何か憑りつかれる原因が、おぬしにあるのではないか?」

 彼には身に覚えなどない。あの石碑に出向いたくらいか、しかしそこで無作法をしたわけでもない。

「ただ敵が悪霊であるなら、人同士の争いより打ち破るのは容易いぞ。心の強さでいかようにもなるからな」

「心の強さ……」

 まだ彼には得心できなかった。




「ナツヒ様、昨晩も眠れませんでしたの?」

 シュイは目の下にくまをこしらえた彼を、深く心配している。

「先日の満月の夜は、怪しげなものが出なかったのですよね。でしたら寝室に丸い木板を掲げましょう」

「ん? 板ならここにもあったはずだが」

 ナツヒは前それを見たところに目をやった。


「どこにもありませんわ」

「そうか? あったと思ったが……」

「では他のお部屋から拝借いたしましょう」

 シュイは彼を引っ張って立ち上がらせた。




「ここ、あの時の部屋じゃないか……」

「だってここは使用目的が割れている処ですし」

 3人で覗いた例の寝室だ。ナツヒは早速板を見つけたので借りていくことにする。


「あら、この鏡」

 王に渡した銅鏡が、そこに置かれているのをシュイは見つけた。


「国からの土産をずいぶん雑な扱いだな」

 それに価値を見出していない者にしてみたら、確かにただの鏡なのだが。


「おふたりでお使いになっていたのではないでしょうか」

「?」

「こちらの寝床で」

「…………」

 ナツヒはげんなりした。

「さぁ、早く出よう」


 ナツヒがさっさと出ていった後で、シュイは少し鏡を覗いてみた。髪を整えたかったようだ。

「あら? これは……」



 そして翌日のこと。ナツヒは自室に掲げた木の板が割られているのに気付く。木などいくらでも用意できるものだが、まったく気分のいいものではない。食事を運んできたアオイも不安げに言う。


「これは悪霊の仕業でしょうか」

「悪霊が木を割るか? いかにも人間の嫌がらせだ」

「しかし、外からいらっしゃったあなたを疎む者など、ここには……」

「早く帰れって言われてるんだな。アオイ、とにかく王に早く結論を出すよう進言してくれ」

「分かりました……」



 彼女がそこを出たら、シュイが足早にどこかへ向かうところだった。その手に持つのは丸い木板だ。

「ホウセンカ様、お急ぎでどうかされました?」

「あら、いいえ」

 シュイは彼女が手に持つ木板を見つめてくるので、意識を逸らすため、これを聞くのだった。


「あの日、あの石碑に案内してくださった時……私は男女の仲を取り持つような、ご利益のあるところ、とお願いしましたわよね」

「ええ」

「もちろんそんなところ、当たり前にあるものでもないので、ただ言ってみただけですが……あなたはあるとはっきりお答えなさって、私は少々驚いたのです」

 アオイは表情を変えずに、シュイの言葉を聞いていた。


「しかしあそこは慰霊碑でした。どういうことですかしら」

「私も詳しくはないのですが、あの石碑は慰霊のためと同時に、夫婦が永遠に仲良くあるよう祈りにいく処なのです」

「夫婦?」

「仲違いした男女の仲を取り持ってくださるようにと、月の神に80年間、人々が祈りを捧げ続けた処のようですよ」


 シュイはまだ釈然としないようだが、人の信心の集ったところだということで納得はした。そして彼女は小走りで、どこぞへ向かった。


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しっかり改稿してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ
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