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神の声は聴こえない! ポンコツ巫女の私がこの手でひらく未来は   作者: 松ノ木るな
第十一章 恋心

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③ もうちょっとまじめにもてなしてください

 その後、ナツヒはシュイと王宮内を散歩していた。途中、会話する王と妃を遠目に見かける。彼らの周囲に警備兵も何もなく、お気楽な国だ。平穏な証拠なのだが。

 早速シュイはこそこそと寄って行き、聞き耳を立てた。

「おい、ばれたら……」

「しっ」


 そしてふたりは聞いてしまった。妃が王に、東の国と手を結んだ方が良いと話しているのを。東の方が勢いのあることは伝わっているし、行動は早い方が、と言っている。王より妃の方が政治的手腕が有りそうだと、ナツヒもシュイも感じた。


「どうかされましたか?」

「「!?」」

 後ろから突如現れたアオイに、ふたりはびくりとする。何も言い逃れできない。しかし、彼女は我関せずといったふうで。


「王宮の外へご案内いたしましょうか? 海しかありませんが。海へは今宵、王が夜釣りへお連れしたいとのことです」


「夜釣り??」

 闇夜の中、松明を多く炊いて釣りをするのはとても雰囲気が良いらしい。


「日が落ちるまでまだ少し時がありますので、どちらかにお連れしたいのですが」

 そこでシュイが提案した。

「では、こちらに霊験あらたかな処はありませんかしら。とくに、男女で訪れると……などの素敵な言い伝えがあるような」


「ありますよ」

 返事はずいぶんあっさりだった。



 海岸に沿った森の脇を2刻ほど歩いたところだ。大きな石碑が建てられている。それの元には、円形の木の板が多く散乱していた。

「ここにはいったい何が祀られているというのでしょう? 大きく立派な石碑だとは思いますが……」

 シュイにはそれが明るい印象には見えなかった。


「この国の何代か前の、王の魂を慰めるための(いしぶみ)です」


 訪問者として案内されたふたりには、そこはかとなく不穏な話だ。


「慰められる必要があったのか?」

「ええ、殺されたそうです」

「王が……誰に?」

 シュイがそう尋ねたが、アオイは首を振るのみ。


「私はそのあたりをよく知らなくて……。生前は穏健な王だったようですが、命を突如奪われた恨みは果てしなく、毎夜毎夜地上に現れては、人々の命を脅かしたと伝わっています」

「で、この丸い板は?」

 ナツヒが手に取ったそれは、丸太を薄く切った物か。そこらに散らばるのはどれも同じような大きさ、薄さの丸い板だ。模様がうっすら彫られているのもある。


「しばらくして人々は気付きました。その王の霊は、満月の夜には現れないと。なので人々はこのように木を薄く切り、満月に見立て家々に掲げたのです。そして今もなお、民はそれをここに供えに来ています」

 言われてみれば、板に彫られた模様は月のそれであった。


「ただ、油断をしたら……またその死霊に憑りつかれる、なんてことも、あるかもしれませんね」

 ナツヒもシュイもあまりそういった話には食いつかない。ここにユウナギがいたら大騒ぎであっただろう。


「この国でご案内に足る建造物は、あとは歴代王の墓しかありません。それもずっと遠くにありますし。では、戻って夜釣りへの準備をいたしましょう」

「まぁ海岸沿いを散歩したと思えばいいか」


 シュイもナツヒの腕にくっついているので、それで満足だったようだ。しかし彼女は帰ってから思い出した。あれは、男女で訪れるとどうにか、という碑ではなかったのかな、と。



 夜釣りの時間には、シュイはもう眠くなったと出てこなかった。

 ナツヒと隊の面々は、王やアオイに連れられ夜の岩礁にやってきた。松明を掲げる多くの従者を連れているが、ナツヒは不安になる。あまりにも夜の海の暗黒が大きくて。


 彼はこのたび初めて海を見た。己など一瞬で飲み込まれる大自然の脅威をひしひしと感じる。こんなところに、いくら大勢の兵を従えているとはいえ、王がやって来て大丈夫なのかと。もし何か起こったら、と考えてしまう。しかし釣りをしている分には大きく動くこともない。今はそれを楽しむのがいいのだろうと、果てしない夜の海をただ眺めていた。


 岩礁から狭い岩場に足を掛け、来た者みな砂浜へ戻るという時だった。よりにもよって、王が足を滑らせた。そこは大人でも足が届かないといった深さの海。王の落ちる水音を聞いた瞬間、ナツヒは激しく動揺した。通常なら即刻飛び込むところだが、彼は海の泳ぎ方を知らない。国に海はないのだから。しかもこの暗闇だ。


 彼はこの中に勇んで救助する兵はいないのかと見回した。すると、側にいたアオイがなんと、まとう衣裳を脱ぎ捨て即座に飛び込んだのだった。


「……!!」

 ナツヒは度肝を抜かれた。その場の男の誰一人として出来ないことを、細身の女性がためらいなく行動に移したのだ。彼女はすぐに彼を抱え海面から顔を出し、陸へと向かった。それは人の力ではない、ナツヒは確信した。


 ぐったりとした王を浜で待つ兵らに渡してから、彼女は賓客であるナツヒに謝った。

「お騒がせしてしまい、まことに申し訳ありません。こんなこと滅多に起こらないのですが……」


 稀にでも起これば大惨事だ、とナツヒは呆れてしまう。気にはなるが、彼女が何者かは聞かずにおいた。きっとユウナギも、根掘り葉掘り聞かれたら嫌だろうと想像したからだ。しかしこういった能力があるから、彼女が側近として周囲に認められているのだろうと思い至る。



 その夜はナツヒも疲れで完全に熟睡だった。目が覚めた頃はもう昼も過ぎ。食事をもらおうと出ていくと、ある部屋の戸の前で、アオイがその中を覗いている。近寄ったら、彼女が涙を流しているのに気が付いた。

 何だろうと思い、ナツヒも彼女の頭の上からその中を覗き見る。


「!?」

 彼は驚いて後退りする。

「お前、何見てるんだよっ」


 彼女はそこでナツヒに気付き、小さく声をかけた彼の方を一度は見たが、何も答えずまた覗き始めた。


 ナツヒはその彼女の様子に、自分は何か幻のようなものを見たのかと、もう一度同じように覗いてみた。

「! ……」

 再び声にならない声を上げ、彼は戸から離れた。その中では間違いなく、王と妃が一糸まとわぬ姿で睦み合っているのだ。


 そして再び彼女を見つめると、やはり彼女は涙を流しているのである。

「何やってるんだ、本当に……」


 そこにシュイが通りかかった。ふたりがどうも何かやらかしているのを見つけ、足早に駆け寄る。

「何をなさっているのです?」

 ナツヒはそれに何も答えないし、アオイはまだ覗いている。シュイは不審に思い、自分もアオイの頭上で覗いてみる。


「まぁ……」

 継続して覗き見る彼女に、ナツヒは呆れて首根っこを引っ張った。


「彼らはどうしてこちらで? 王の寝室はこんなところではないでしょう?」

「気分を変えるためかと。日中はいろいろな処でなされています。こちらのように人目に付く可能性のある場もお好みのようです」

 アオイはこぼれ落ちる涙を拭おうともせず、淡々と答える。


「ああそうですの……」

 シュイですらどうにも脱力している。

「で、あなたはどうして泣いているのかしら?」

「……羨ましい、から?」

「から? と聞かれましても。ナツヒ様、あちらへ行きましょう?」

「ああ、だが、なにか食べ物を……」


 そこでやっとナツヒに気付いたかのようなアオイは、

「今、用意させますね。お部屋でお待ちください」

そう告げて走って行ってしまった。


「変わった方ですわね……。それより、早くここから立ち去りましょう!」

「……そうだな」

 ナツヒは何も見ていないと自己暗示を掛けながら、そこを後にした。


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しっかり改稿してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ
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