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神の声は聴こえない! ポンコツ巫女の私がこの手でひらく未来は   作者: 松ノ木るな
第十章 共感

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③ 拾われた舞姫

 大まかに(むら)の中心地を見てまわったふたりはそこらに腰かけ、男は下げ袋に入れていた果実をユウナギに渡した。

「ありがとう」

「今はこれぐらいしか持ってないんだ」

「十分よ」


 その時、側で女性が数人、不安げな様子で立ち話をしていた。それに男が興味を持ったのか、首を伸ばして話しかけるのだった。

「ここらで何かあったのか?」

「ああ、外から来た人? 最近この辺では恐ろしいことが起こっていてねぇ……」


 どうやら、若い娘が立て続けに殺されたり行方知れずになったり、という事件があったようだ。

「数日前、近所の()がそれに巻き込まれて、今は葬儀の最中なんだ。そこのお嬢さんも気を付けなよ」

「…………」

 ユウナギは恐ろしさで青ざめる。


 そんな話を聞いていたら、向こうの方で明るい声が上がっていた。

「さぁ、もう他に舞い手はいないかい!?」

 ふたり揃ってそこの人だかりへと振り向く。舞台のような大きな建設物の上で、男性が大勢に声を掛けている。それを綺麗な衣装の娘たちが囲んでいた。


 ユウナギが駆け寄り集まっている人に聞いたところ、舞いの披露で競い合う催しをやっているようだ。


「いちばん優れた舞い手には、米俵を贈呈だよ!」

 ユウナギは小声でつぶやく。いちばんとか2番ってどうやって決めるのよ、と。その時、隣の彼が高らかに声を上げた。


「おう! こいつが参戦するぜ!」

 そう言いながらユウナギの手を掴み上げる。

「えっ!?」

「おお! じゃあお嬢さんが最後の舞い手だな! 上がっておいで」

「ちょ、ちょっと! 急に!」

「いいじゃねえか。参加料とられるわけでもなさそうだし。優勝すれば、米俵だぜ?」


 ユウナギは二の句が継げなくなった。人だかりが彼女のために舞台への道を開ける。

 仕方なく、一度息を吐いて前進した。男は自分に恥をかかせようとこういうことをするのだろうが、それなら受けて立とうと奮い立つ。


「楽師のみなさん、ちゃんと私の舞いに合わせてくださいね」

 ユウナギは不遜にも、舞台横に座る笛や太鼓の楽師に人差し指を立てて言い放った。

 そして腕をぐいっと伸ばし息を大きく吸って、堂々と舞い始めるのだった。

「天女直伝の舞いを、みんな見ていって!」


 そこにワァっと歓声が起こる。それは地上じゃそうは見られない、天女さながらの美しい舞いだ。観客はひと時、春の暖かな空気に包まれた。


 ユウナギが舞い終わり礼をすると、沸き上がる拍手喝采。この催しを先導する者も舌を巻き、はっとして叫ぶ。

「これは驚いた! これはもう決まりでいいかな!? この舞姫に米俵を!!」


 そういったわけで、ユウナギの手に図らずも米俵が。芸は身を助けるのね、とまんざらでもなかった。



 その後、ユウナギはにこにこしながら男にそれを渡した。

「まさかそこまで舞えるとはな」

「ふふ――ん。意地悪は通用しないわよ」

「意地悪じゃねえよ。まぁ壇上でおかしな舞いを見せられたら面白いとは思ったが」

「意地悪すぎるわ。じゃあ、これでこの衣服は買わせてもらうわね。世話になったわ、さよなら」

「あ、待てよ」

 すたすた行こうとした彼女を男は引き止める。


「さっきの話忘れたのか? 女がひとりでうろつかない方がいい」

「でも……」

 ユウナギはまず先ほど見つけた例の家族の家に、話を聞きにいこうと思っていた。

 この男といたらいつどうなるか分からない。もし万が一あんなことどんなこと?になったら、元の世に帰れなくなるかもしれない。そもそも名も教えてくれない男だ。


「この(むら)に来る前にも小耳に挟んだんだが、若い女は見境なく襲われるらしい。女であれば土偶ですら粉々に割られるという現状だ。悪いこと言わないから俺といろ」

「え、ええ……??」


 しかしユウナギはまずあの家族に会いに行って、話を聞いたらもう森に籠って帰るのを待ちたい。森に隠れていれば事件に巻き込まれることもないだろう。死の時期が分かっている自分はここで命を落とすこともない。元の世にも帰れる。しかしそれは彼と共に行動をしない、という道を選択したからであろう。


「いえ、私、ひとりでも大丈夫だから」

 目線を合わせようともしない頑固な彼女に男も、それ以上は引き止める理由もなく。


「なら、この米俵、衣服より価値が高いからその差分だ」

 男は持っている銅貨の袋をユウナギに渡した。

「これ……」

 中には十分な銅貨。国の上層階で流通しているものだ。


「銅貨の使い方は分かるか?」

「……ええ。でも、これまだ使えるの?」

 彼は彼女をふしぎな女だと感じた。


「そのうち使えなくなるが、今は大丈夫だ」

「そう……」

 国が戦に破れてまだそれほど時間がたっていないのだと知る。彼に一度頭を下げ、ふらふらと離れていった。



 ひとりで大丈夫、とは言ったものの、ユウナギは男について歩いていたので、早速道に迷ってしまった。狭いところに建物が多くあるもの問題だ。こちらの方へ行けばいつかは着くだろうと当てずっぽうで進み、結局人気(ひとけ)のない路地に入ってしまう。嫌な予感がして、足早にそこを通ったら。


「っ!! ……」

 後ろから頭を殴られた。ユウナギは倒れ、脳裏に「お嬢さんも気を付けなよ」との声が蘇った瞬間、意識を失った。




「ん……?」

 目を開けたら、視界には天井が。そしてその視界にぬっと出てきたひとりの青年。ユウナギは驚きで息を飲んだ。


「気分はどうだい?」

「あれ……私は、いったい……あ、頭痛っ」

 起き上がろうとした彼女は後ろ頭を押さえる。


「君は暴漢に襲われたんだよ。ちょうど通りがかった私の従者が撃退したんだ。もう少し早く私がそこに着いてさえいれば……」

 品の良さそうなその青年が手を上げると、侍女らしき娘が碗の水を持ってきた。

「いえ、助けてくれて、ありがとう……」

「捕まえられれば良かったんだけど、従者は一人だったから……」

「いえ、ほんとに」

 彼は指を立てて聞く。

「これ何本?」

「3本」

「自分の名は分かる?」

「ええ」

「じゃあ大丈夫かな」

 ユウナギが少しその場を見回すと、大きく立派な家屋だと分かる。


「私はミズアオ。少し前この地区にやってきた地方豪族なんだ。君は?」

「私はツバメ。えっと、旅をしていて……」

「ああ、そうだ! そうではないかと思っていたんだけど、君はもしかして、あの催しで優勝した踊り子ではないかい?」


 彼女がそうだと答えたら彼は、これは神の采配ではと喜びの声を上げた。ふしぎに思い、話を聞いてみることに。


 東の地方から来た豪族である彼は言う。昨年より大王(おおきみ)が支配することになったここ新しい土地の、特に発展の目覚ましいこの邑は、移住先として身分のある者の間で注目を浴びている。そして上に立つ者、つまり大王によって地域の統率者が選ばれるのだが、その決定日が迫っているらしい。


「大王の支配……」

「ん? ……私は4人の統率者候補のひとりだ。だから三月前からこの地域に入り準備をしている。だけれど……」


 同じく東から来た豪族が、彼を目の敵にしているようだ。


「明日にも、大王代理の補佐官がこの邑にやってくる。観衆の前で候補者は贈り物を献上し、大王の意向を汲んだその代理の方がそれを決めるんだ」

「贈り物の内容で?」

 彼は頷く。


「なのにここに来てからというもの、その男は私が準備した贈り物をことごとく粉砕してくる。元々領地が隣同士でね、以前から隙あらば土地も資源も狙ってくるとんでもない奴だった」

「粉砕? ど、土偶?」

「土偶??」

「い、いえ。告発しないの?」

「今言っても、証拠がなければこちらが妨害しているように取られてしまう。奴は狡猾でね……。地域を良くしようなんてこれっぽっちも思っていない、私欲にまみれた奴なんだ」


 そしてなぜ自分と会えたことが神の采配なのか、ユウナギは聞きたい。


「それで君にお願いなのだけど……私の贈り物として、そこで舞いを披露して欲しいんだ」

「えっ、ええ――!?」




お読みくださいましてありがとうございます。


主人公、毎度よくまぁ意識不明になるなぁ~。そんなに頭打って大丈夫なの?

→ファンタジーなのでお約束です。()

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しっかり改稿してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ
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