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神の声は聴こえない! ポンコツ巫女の私がこの手でひらく未来は   作者: 松ノ木るな
第九章 とわに君のそばにいたい

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④ 顔がちょっと可愛い有能なヤツら

 ユウナギが墳丘墓に向かい出した頃、父を探すトバリとナツヒがある場所でかちあった。

「兄上、下の者からの報告は?」

「こちらにはまったく」

「こっちもだ。女王の住まい周辺は俺が見て回ったが」

「ああ、私もこちら側は見た、あとはこの倉庫だけだ」

 そういうわけでふたりは、女王宅の裏手にある丞相専用の倉庫にやってきた。


「こんなところにいるわけないよな。いたら子どものかくれんぼだ」

「念のためだ。入ろう」


 ふたりは戸を開け、中に押し入った。

「「!?」」




 墓に向かう途中、ユウナギは考えていた。

 自分は間違ったことをしたとは思わない。いくらそれが神の使いであろうと、死者の道連れに従者を生き埋めにするなど、宜しい風習ではない。

 ただそれが、神だからという理由ではなく、大事に思う者だからひとりで行かせたくない、と願う気持ちならよく分かる。自分だってきっとそう、己にまだ時間が残されていようとも、共に埋めてほしいと望むだろう。


 墓前に着いたらハヤブサに羨門での見張りを頼み、ユウナギは棺の置かれている玄室へとまっすぐに走った。


「!」


 そこ前室で見つけたのは、土に埋もれ肩から上だけが覗いている丞相と、彼を手伝い土を被せようとする下働きの少年だった。


「止め――っ! その作業止め――っ!!」


 少年は震えあがった。大層な衣装をまとったものすごい形相の女が、大声を上げて迫りくるのだから。丞相もそれに気付いた様子、だが土の圧迫で声は出せない。


 ユウナギは軽く少年を突き飛ばし、その場で土を掘り返し始めた。そして怯える彼に向かって、

「私は女王よ! 私を手伝いなさい!」

と威圧した。

 少年は何が起きたのか分からない恐怖で震えたままだ。しかし丞相の元に女王が来てもおかしくないし、それなら女王の命令を聞かねばならぬので、手にしている道具で共に掘りだした。


 そしてユウナギはついに丞相を引っ張り上げ、安心し、「ふう~~」といったん腰を据える。そこで土まみれの彼は、膝をついてこう申し出るのだった。


「お願い申し上げます。先代と共に逝かせてください。あの方をおひとりで向かわせるのは、忍びないのです」


 ユウナギには、本人が望むのなら止めるのが良いことなのか、という葛藤もあった。それでもこれは自らの命を絶つ行為だ。放ってはおけない。こちらも大事に思う者ならなおさら。それが罷り通れば連鎖してしまうではないか。


 「はぁ~~」と長めに息を吐いて、彼女は断言した。


「やっぱりだめです。自分で自分の命を絶ってはだめ。理屈じゃないの、だめなものはだめ」

 丞相は項垂れる。


「どうしても、あの世ですら女王に仕えたいっていうなら、いつかのあなたの旅立ちも、ここから始めればいい。私たちが責任を持って、あなたの棺をここに運んでくるから」


 その時、羨門の方からばたばたと足音が聞こえた。


「兄様、ナツヒ!」


 兄弟の登場だ。

「ああ、やはりここにいたのですか、我が父は」

 ふたりはハヤブサを従えてユウナギがここに向かったと、兵から聞いて来たようだ。


 ナツヒが何か茶色いものを担いでいる。

「ナツヒ、それ何? 人……?」


 彼が肩から降ろした人型の何やらに寄ってみたら、それはユウナギの背丈より少し小さいだけの土器だった。


「……顔がちょっと可愛い……」

 これがユウナギのそれに対する第一印象である。


「これは丞相専用の倉庫にあったものです」

「というか倉庫にこういうのばかり、百体ほど詰め込まれていた」

「ひゃ、百体!?」


 倉庫の戸を開けてこの人体様土器が百体あったら、ユウナギなら一目散に逃げ出すだろう。

 丞相はただ黙ってうつむいている。


「これは何だと思い焼き場で調べたら、たったひとり事情を知る、年老いた職人が教えてくれました。これは父が20年も前から隠れて作り続けている“埴輪”なのだと」

「ハニワ??」

 ユウナギは知らないものだ。


「国にはありませんが、近隣の国々で円筒のものが作られているようです。祭祀(さいし)や魔除けに使うのだとか」

「しかしいくら何でも凝り過ぎだろう。人型の他にも馬型があった」


 職人は手伝わされていたようだが、兄弟は父が作ったと聞き、「そんな時間どこにあった!」と舌を巻いた。


「率直に言うが、父上。その情熱をどこか別のところに使えなかったのか?」

「あ、いいよ。その20年に渡る情熱、ここで活用しましょ」

 ナツヒから受けとった埴輪を抱いてユウナギは、丞相の目の前で腰を落とす。


「これ、何のために作ったの?」

「……国が永く平和でいられるように……そして家族も、末永く幸せに……またはそれを通じて、許されたかったのかもしれません……」


「ふぅん? “この子”の中の空洞には、そんなあなたの思いが詰まってるのね。じゃあ、もうこれ、あなたじゃない? このあなたそのものである埴輪に、共に逝ってもらいましょ」

 丞相は顔を上げユウナギを見た。


「百人のあなたが、あの世で引き続き、いつも女王のそばにいて支え見守る。だから大丈夫」

「…………」

 ユウナギは立ち上がり。

「百体すべて、従者が入るはずだった穴に運んで」

 こう兄弟に命じた。


「それでいいでしょう? そしてあなたが旅立つ時は、ここ、女王の手前に眠ってもらうから」

「……はい。あなた様の御心のままに」

 彼は再びユウナギの前で頭を下げた。しかしそのまま頭が上がらなかった。


「……?」

 高い熱を出していて、そこに倒れたのだった。




 それから2日が過ぎ、熱は下がったものの、丞相はただ眠り続けた。トバリはユウナギに医師の言葉を伝えた。たぶんこのまま、神に召されるのだろうと。ユウナギは当然動揺するが、トバリは落ち着き払った様子でこう説く。


「父はもう齢40に近いのです。このまま眠るように逝ければ、まったくの果報者です」

「それは、そうなのでしょうけど……」


 それからユウナギはずっと丞相の病床にいた。真夜中も隣でうたた寝といった様子なのでトバリにいなされるが、実子である彼らの誰もそこにいない時は絶対に離れないと聞かない。


 ある時そこの侍女らが、近くの林に良い香りの水仙が生えていた、と話しているのを聞いた。病床の彼が目を開けなくても、もしかして花の匂いなら伝わるかもしれないと、彼女はその場を一時侍女に任せ、外へ出た。


「しまった、巫女衣装のまま来ちゃった」

 女王用の衣服でこういった草木の多い場に出たのは初めてだが、まったくもって動きづらい。裾がすぐに汚れてしまった。


「そういえば、女王になったら籠の鳥の運命に従うって言っちゃったのよね……」


 そのような時に、久しぶりのあの感覚が。ユウナギは自分の両肩をぐっと掴み、静かに空へ浮かぶ瞬間を待った。




「……桜……?」

 目を開けたらそこは桜吹雪の舞う空の中。立派な桜の木の枝に腰かけていた。風が心地よくて、今はそこから動こうと思えない。

 温和な空気に包まれ、彼女は少しまどろみ始めた。


 するとその時、よく響く美しい声が聞こえてきた。

「女王!」




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しっかり改稿してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ
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