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神の声は聴こえない! ポンコツ巫女の私がこの手でひらく未来は   作者: 松ノ木るな
第八章 舞台裏

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② アバウトレシピ30分クッキング

 ユウナギは唐突なその掛け声にびくっとした。振り向くとそれは、そばかすと跳ねっ毛が印象的な、自分と同年ぐらいの侍女だった。

「えっと、小腹がすいたので、ちょっとつまみ食いに……」

「う―ん、さすがに(あるじ)に出すものはダメだから、そこにある梨ならいいんじゃない?」

「あ、うん、梨かぁ」

 普段なら梨も美味しくていいのだが、今はこう、力のつくものが欲しいのだ。


「あんた見かけない顔だね」

「あ、ひとり病でさがったみたいで、私今日から急に入って……」

「そう、じゃ基本的なこと教えてあげる! こっちの屋敷側にいた方がいいよ。殿の方に行くとすぐ主に食われるから」

「げっ」

 ユウナギの顔が一瞬にして青くなった。


「げ? だからさ、主のせいでこっちの係りろくにいなくてぇ。私もう忙しすぎてやってらんない。あ、そうそう。これなんだけど―」

 言いながら彼女は手のひらに乗せた穀物を見せてきた。

「……小麦?」

 次に壁際の、袋にいっぱいの小麦を指さした。


「小麦なんて珍しいわね」

 国ではあまり栽培されていない。あまり効率のいい農業でないからだ。


「うちの組はめったに米食べさせてもらえないんだ。贅沢するなって」

「だからって小麦? (あわ)じゃなくて?」

「たまたま近くでうまく作ってる人たちがいるみたい。でもさ、そのせいで毎っ日重湯なの。もう本当につまんない。たまには米が食べたいよ~~」


 ユウナギは普段から米をたらふく食べて満足しているので、米の価値を意識したことがなかった。そこで、そういえば()の国では小麦を粉にして焼いて食べると書で読んだな、と思い出した。


「重湯以外の方法で食べてみたらどう?」

「そんなんある?」

「うん、たぶんね。まず粉にしなきゃ。石臼はどこ?」

「そこに」

 ユウナギはそれをひきずり出した。


「じゃあこれで挽くから、まずカラを取ろう!」

「う、うん」

 その後ふたりは挽いた粉をふるいにかけた。ふるってふるって更にふるった。


「で、これをどうすんの?」

「えっとねぇ……」

 ユウナギは記憶の糸をたどる。彼の国ではこれを水で溶いたものを、鉄板の上で薄く伸ばしながら焼き、別に用意した具材を巻いて食べるとあった。しかしそれを薄く伸ばす道具とは何だろう。おそらくここには置いてない。


「とりあえず焼いてみよう!」

「う、うん?」

 ふたりは水で溶いてどろどろになったものを熱した鉄板にぶちまけた。そうしただけで薄くなるはずがない。ユウナギは薄くないと具材を包めないよなぁと思ったが、それ以前にこの固まりうまいのだろうか、という疑問が。


「ねぇねぇ、裏返して! 焦げちゃう!」

「あ、うん!」

 行き当たりばったりである。表面を焦がしてしまったが、侍女はこれをちぎって口に入れてみた。


「うーん、味はそれほどないけど、食感は悪くないんじゃない?」

「本当だ! 嚙み心地いい。でも味どうにかならない?」

「何か混ぜてみようか」

「何がある?」

 その場からきょろきょろと見回した。


「塩は? 塩混ぜとけばとりあえず何でもうまいし!」

「どちらかというと、甘味が欲しいな」

 ユウナギは甘党である。


甘葛煎(あまずらせん)か蜂蜜はある?」

「どっちもないなぁ。やっぱりここは塩で」


 そのとき目に入った。カゴに入った大きな卵の山。

「たまごどうかな? これ何のたまご?」

「分からない。何か大きな鳥のたまご」

「うん、まぁ、入れちゃおう!」


 そして出来上がった生地は。


「なにこれいい食感!!」

「味たいして変わってないけど、食感良くなってる!」

 初心者はたまに幸運を発揮するという古来からの現象だ。


「うん、でもやっぱり味が欲しいから、具材を用意しないと。何があるの?」

 それを受け、侍女は調理場を隅々まで確認しまわって伝える。

「肉はあまりないけど野菜なら。あと川や池でとれるもんなら割とあるよ! 蟹、亀、蝦、蛙、タニシ! 何が好み?」

「全部試そう!」

「なら、もうここで一緒に焼いちゃっていいかな? 全部を別で用意するの面倒だよ」

「いい、いい! 一緒にぶちまけちゃって!」


 ふたりの気分が盛り上がってきたこの時、ここの扉が開いた。

「あ、アヅ様!」


 ユウナギはひやりとして顔をそちらから背けた。こそこそと隅へ行き、侍女との会話に聞き耳を立てると、どうやら過去のユウナギに食べさせる何かを探しに来たようだ。侍女は主に出すために用意したものを分け、上役であるアヅミに渡した。


「どうしたの?」

 それから彼女は気配を消したつもりのユウナギに話しかけるが、まだアヅミは出ていっていない。


「あ、あの、私、奥の方でこの具材を切り分けるわね」

「うん。あ、……えっと」

 彼女はユウナギの名を呼ぼうとして、まだ聞いていないことに気付いた。しかし何も聞いていないふりをしたユウナギはすでに、奥へ早歩きで逃げた後。



 そうこうしているうちにアヅミは隣室へ行ったが、ユウナギの鼓動はまだ速い。なので黙々と役目をこなすことにした。


 しばらくして。

「はい! 大体細かく切り分けたから、一緒に鉄板で焼いてしまって!」

「あんたは一緒にやんないの?」

「ちょっと私、仕事があったの思い出して。行かなきゃ。またここに戻ってくるから、出来上がりがどんなだったか教えて」

「分かった。そうだ、これあげる」


 彼女はユウナギに燻製肉を1本放り投げた。そしてにっかり笑ってこう言うのだった。

「付き合ってくれたお礼。あたしのとっておきだよ。後でこっそり食べようとくすねておいたんだ。そういえばあんた名前は?」

「肉!! ……あ。名前は、ナギ」

 肉に目の色変えたユウナギは少し恥ずかしくなる。


「ナギね。あたしはミツバ。言ってなかったよ」

「ありがとうミツバ」

 肉を懐にしまって、ナツヒの待っているところに戻った。



 ここから、ユウナギの緊張の所以となっていた仕事の始まりだ。

 ちょうど今、1年前の彼女はアヅミと崖の上にいる。そしてまた降りてくる。


「ナツヒ、準備はいい? さっきの警備兵の衣服はちゃんと隠しておいた?」

「ああ」

 ふたりは地下牢へ続く階段近くの個室に潜んでいる。ほんの少しだけ戸を開け、外の様子を(うかが)っていた。


「ここからは急がないとね」

「あそこまで急がなくてもいいと思うが……」

 ユウナギが慌て過ぎていたせいで、1年前のナツヒはろくに説明がなされなかったのだ。


「じゃ、私行くから。衣類庫で待ち合わせよ」

 ナツヒが(うなず)いたのを目にして、彼女はそこを出た。


 間もなくナツヒは戸の隙間から、ユウナギが1年前の自分を引っ張り行くのを確認し、牢のある地下へと降りていった。「少しは説明してやれ」と思った。「あと脱がすな」とも。



 足音がする。

「ナツヒ、気分はどう?」

 ゆっくりとアヅミは地下へ降りてくる。寝転ぶナツヒの口角は自然に上がっていた。余裕の表れだ。


「こんな牢内で良いわけないだろ」

「あなたのためにわざわざ隠れ場を用意するなんて、面倒だったもの。でも今なら大丈夫よ」

 言いながらアヅミは扉を開けた。


「ある一室でユウナギ様と待ち合わせをしているの。出ていらっしゃいな」





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しっかり改稿してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ
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