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神の声は聴こえない! ポンコツ巫女の私がこの手でひらく未来は   作者: 松ノ木るな
第三章 あなたの役に立ちたい

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⑤ あなたの命?私の命? 助かるのはひとつだけ

 たまに思うけど、この子の睡眠周期はどうなってるの? とユウナギは脱力したが、それだけ彼が懸命に、役目を務めているということでもある。


 ともかく時を持て余し、ため息混じりに周りを見渡してみた。奥の方にある篝火(かがりび)で多少は明るい。


 監視役の来る気配がないが、なぜ放置するのか。


 牢の扉など通常、木板や縄で押さえてあるだけなのだ。脱獄されないよう牢の前には、常にそれが立っているはずだが、と思考を巡らせる最中、気が付いた。牢の扉オモテに貼られる分厚い板に。


 格子の間から手を伸ばしてその表面を触ってみると、棒状の突起がいくつかそこにある。また、穴がいくつも開いているような手触りもある。

 更に感触から、この板が扉と格子をがっしり繋いでいるようだった。


「この板のおかげで、扉が開かない? だから手縄も不要なのかな」


 ユウナギは、この板を壊せばここから出られるのではないかと考えた。

 方法すら思い浮かばないけれど。




**


 どれほど時はたっただろう。

 何もすることがないと、時の流れも遅く感じる。


 ナツヒは相変わらず寝息を立てて寝ている。起きたら前向きに脱獄を考えるだろうか。


 心のどこかで、彼と一緒なのだから、死ぬなんてことはない、と思っている。

 ただ。


 今は彼の考えていることがさっぱり分からない。

 この薄暗い房の中で、不安を薙ぎ払おうとすると途方もなく、だんだん捨て鉢になっていく。


 その時、階段を下ってくる足音がした。


「アヅ!」


 女官アヅだった。牢の前に立ち、彼女は不敵な笑みを浮かべる。


 格子を握りユウナギは、彼女に向かって訴えた。


「あのっ、何も証明できるもの持ってないけど、私は本当に国の王女なの。信じて」

「あら……後からお越しになった、確かな書状を持つ王女は、気品のある悠然(ゆうぜん)としたお方でしたよ? お供の方もよほど偉丈夫で」


 アヅは白い手で口を押さえ笑った。


「なにそれ……」

 ユウナギは愕然(がくぜん)とする。


「あなたたちはただの曲者だったのね。わりと良いものを着ているのに。まぁ男女二人組が屋敷近くに倒れていたからって、勘違いして中に引き入れてしまった私の落ち度よ。早々に始末するわ」


 アヅの凍てつく視線に尻込みをした彼女は、何も言えなくなった。


「と、思ったけど。私は何を盗られたわけでもなし、曲者をただ始末してもつまらない……」


 何か思い立ったようだ。アヅはいったん背を向け、振り返って言い渡す。


「あなたたちのどちらかひとりだけ、逃がしてあげるわ」

「……え?」

「ひ、と、り、だ、け、あなたたちが決めた方を、私がこっそり逃がしてあげる」


 ユウナギは固まった。


「この牢に男が残れば明日にでも、兵に殴られ蹴られ(なぶ)られる砂袋となった後、川に捨てられるでしょう。女なら、(あるじ)の慰み者として差し出してもいいわね。どうせ主は顔も覚えていないから。そして廃人となったらどこぞに捨てましょう」


「…………」


「そこの男が起きるまで時間をあげるから、相談するといいわ。もちろんふたりで諦めるのも構わない。それとも生き残りをかけて、ここで殺し合いでもする? 男のが圧倒的に有利でしょうけど」


「…………」




 少し間が空いただろうか。


「ナツヒを出して」


 ユウナギは対抗心を(たぎ)らせたような目で、まっすぐに彼女を見た。


「彼を今すぐここから出して」


「あら? 急ぐ必要ないと言っているでしょう? 彼と話してからでも」

「私は王女だから、私が決めるわ」


「王女だと言い張るなら、なおさら自分の命を優先すべきでは? ……というか、死ぬのは怖くないの? 慰み者と言ったけど、男よりよほど酷な死に方をするわよ。主はそういう方なの」


「怖いけど……怖くてどうしようもないけど、そんな二択で生き残ってしまったら苦しいわ。その苦しみは、死よりも怖い」


「……それは特べ」


「猿芝居もいい加減にしろ、アヅミ」


 彼女の言葉を遮るナツヒの声が、そこに響いた。


 ユウナギは驚き、後ろを振り返る。

「!? ナツヒ、寝てたんじゃ……」


 ナツヒは起き上がり、ユウナギの隣で格子の向こうの彼女をめいっぱい睨みつけた。

 腸煮えくりかえる様をさらけ出す彼を目にして、どうやらアヅは満足そうだ。


「何? 今ナツヒ、なんて言った?」


 混乱の最中(さなか)にいるユウナギに早く伝えてやりたいナツヒだが、頭に血が上っていてすぐに言葉が出てこない。


 一呼吸置いて、彼はユウナギを見た。


「こいつは国が数年前隣国に送った間者で、俺の異母妹だ」


「えっ……えええええ!??」


 しばらく緊張で足が震え、立っているのがやっとだったユウナギは、そこで腰を抜かした。

 ナツヒがその両腕を取り、さっと持ち上げる。


「わ、私、知らない。会ったことない。妹いるなんて聞いてない」

「言ってないだけで、異母妹は何人かいる」

「ふふ、お初にお目にかかりますわ、ユウナギ様。私は現丞相(じょうしょう)の長女、アヅミと申します」

 今までずっと高圧的な笑みを浮かべていた彼女が一礼をして、初めて友好的な笑顔を見せた。それは意外にも可愛らしいものだった。


 彼女の顔立ちはとても親しみがあると感じていたが、言われてみれば化粧を落としたら、きっとナツヒとよく似ている。


「中央で暮らした期間はあなた様と2年ほど被っていて……私は一方的にお見かけしておりましたけど。お互い幼かったですものね」


「あれ? 異母妹なのに、どうして丞相そっくりのトバリ兄様じゃなく、母君似だっていうナツヒと似ているの?」

「それはですね……」

「挨拶はいい。お前がついた嘘を早く洗いざらい話せ」


「嘘……?」

 ユウナギが不安げに尋ねる。


「嘘なんて。さっきの選択は冗談だけど? ……ああ、ひとつ、大事なことが」

 ふたりは聞き逃さないよう集中した。


「王女の証の書状を持ってきたという者が、姿をくらましました」

「!?」


「兵や侍女の話では、応接室に待たせておいたら居なくなっていて所持品も消えた……。私も出向いて確認したのだけど、そこはもぬけの殻」


「お前はその者らを一度も見てないってことだな」

「そう言ってるでしょ。私はあなたたちが本物だと知っている。だから兵が侵入者に騙されたのだと思った。もしかしてあなたたちが持っていた書状を、その何者かに盗られたの? だとしたらナツヒもとんだ役立たずね」


 ナツヒは何も言い返さなかった。


「それとも影武者でも用意した? そんなこと打ち合わせていなかったけれど……」

「いや、俺たち本当に頭打って失神してたし、訳が分からない」


 本当に情けない……と言いたげなアヅミ。


「これでは和議は無理でしょう。でも私が必ず、あなたたちを無事にここから出すわ」


 アヅミが真剣であることは、ユウナギにも目を見て分かった。


「まぁ今は無理。森の兵舎に待機していた兵たちが、その行方知れずの者を探しまわっているから。屋敷の内外問わず」


「ならこいつだけ牢の外に出してくれ。侍女の服でも着せれば、お前のそばに置いておけるだろ」


 ナツヒが彼女にユウナギを任せた。しかしユウナギはここまで聞いても、彼と離れるのは不安に思う。


「こいつ川屋事情を心配してるから」

「それはそうだけど……」


「分かったわ。でも私はナツヒほど甘くはないですから、ご了承を」

 そうアヅミが扉を開けようとしたら、ナツヒがいったん止めた。


「ああ待て。こいつと話がある」


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しっかり改稿してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ
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