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神の声は聴こえない! ポンコツ巫女の私がこの手でひらく未来は   作者: 松ノ木るな
第十二章 適所

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④ 少年発明家

 側にいた(むら)の青年がユウナギの疑問に答える。

「ああ、そこの持ち主がちょっと変わり者でね、今年は水害の年だから、どうせ何作っても無駄だと言って」

「水害の年?」


 この集落には御年60いくつの長老が暮らしている。彼の言では、およそ12年の周期でこの地に大きな水害が起こる。それが今年だというのだ。

「確かに前あった洪水は12年ほど前だったかなぁ、俺も覚えがある。でもその前は知らない」

 ほとんどの邑人(むらびと)はせいぜい過去2度しか経験していないし、それがいつだったかなど数えてもいない。長老の言葉を信じるかどうかは人による。


「でも来るかどうか分からないものを見越して作物植えないなんて、そんなわけにもいかないだろう?」

「じゃあ本当に来てしまったら、作ったものが流されても諦めるしかないのね」


 黙って聞いていたナツヒは、それこそ役場で記録するなりどうにかしろと思うが、田舎邑の役人に中央のそれほどの働きを求めても無駄だと知っている。


 青年は自分たちの命が助かれば御の字だと言った。いざ洪水となったら高台の方に避難し、そこらの家屋で邑人同士協力し合い、数日耐えて過ごすらしい。そこでサダヨシも口を挟む。


「何らかの対策は考えないんですか?」

「対策?」

「何もしないでただ来るものを受け止めるだけですか?」

 いかにも子どもの問いかけに、青年は少し困ったような表情で返す。

「自然の猛威には誰も逆らえないよ」

「そうかなぁ? 何でも試してみる価値はあると思いますよ?」


「試してみるって? 水害を止められるの?」

 ユウナギは期待を滲ませた目で、考え込む彼の顔を覗き見る。ナツヒは少し離れた場で作業をしながら聞き耳を立てている。


「止めることは無理だけど、水を誘導するのはどうかな。……ではまず、各家屋のそばに穴を掘りましょう!」

「穴?」

 サダヨシは地面に図を書き始めた。この辺の家屋の位置図のようだ。


「この辺りに四角い穴を掘って、それを石や竹で補整します」

「ただの穴じゃないわね?」

「雨水を貯めるための池です」

 しかもそれぞれの空き地にひとつずつ、いくつも、というのだ。


「雨を貯めれば日照りの時に活用できるでしょう?」

「うん。そうだけど、洪水の時はそれで?」

 貯めたところで溢れてしまったら? とユウナギは尋ねたい。


「この池どうしを溝で繋ぎます。すると降雨が集中した地区の池から溢れそうになる頃、溝を通って隣の池に流れる、隣のそれも溢れる前に更に隣へ」

 どんどん地面の図を書き足していくサダヨシの周りに、話を耳に挟んだ邑人たちが集まってきて円を作る。


「水を遠くに渡していくのね」

「洪水の規模にもよりますが、何もしないよりは被害が緩和するはずです。やってみませんか?」


 邑人(むらびと)たちは新しいことを始めるという期待感で、前向きな反応を見せた。早速、役人のところへ話しに行き許可を得たようだ。

 もちろんユウナギも、池作りに積極的に参加する意思を示す。


 邑のみなは普段の仕事があるので交代で、3人は朝から晩まで穴掘り、舗装で時を費やすことにする。ユウナギは新しい邑作りの一端を担う使命感で、常に高揚していた。心に巣食う近い未来への不安を一時忘れるには、十分な役割だった。

 

 作業中はサダヨシにたくさんの話を聞かせていた。特に、今までの旅の思い出を。


「遠い国からやってきた渡来人が建てた屋敷にはね、珍しいものがいっぱいあったの!」


 サダヨシがとりわけ興味を示したのはこの話題だった。部屋の天井近くに通風、採光のため格子窓が取り入れられているだとか、“こたつ”という名のふたつ連なる梯子が便利だとか、彼は輝く瞳で聞き入っていたのだが、ユウナギが鍵と錠前の話をすると。


「それ欲しいです! 使ってみたい!」


 彼の琴線に触れたらしい。ユウナギは「そうだよね、これ絶対使えるよね」と同調して嬉しくなったが、実際中央で提案したこともなく、作れるかどうかという点で想像が沸かない。


「でも作り方が……。ねぇナツヒも分からないよね」

「分かんねえ」

 非協力的な彼であった。


「ちょっと一晩かけて考えてみます!」

 帰り道でのサダヨシは、考え事をしてますと言わんばかりの雰囲気であった。



 翌朝、彼は普段より早く目覚めた。夜が明けた瞬間に外へ飛び出て木材を調達し、用意した道具でそれを加工し始める。


 その後起きてきたユウナギは、何やら没頭している彼に気付き、朗らかに声をかけた。

「もう何か思いついたの!?」


 その頃には変わった形の木の板が用意できていた。

「うまく作れるかどうかは分かりませんが、理屈では問題ないです」

 どうやら彼はユウナギの説明を手掛かりに、少々様式の違うものを考案したようだ。


「ツバメさんは中に針があって、と言ってましたよね。でもちょうどいい素材は手に入らないので、全部木で作ります」

「へぇ!?」

「また、穴は10個ということでしたが、僕の錠前は1個です」

「1個?」

「錠前の穴に合わせた形の鍵を作ります。それでしか開かないように」


 サダヨシは地面に図を書き始めた。まず横幅の長い、上辺の真ん中がくぼんだ長方形の形を、そしてそのくぼみのところに横線を書く。

「それ錠前だよね。この棒を外すんだよね」

 ユウナギは横線を指さした。彼はその長方形を更に2つに分けた図を書いた。元々ふたつの部品が合体しているもののようだ。

「この“(つる)”がある方を錠前本体から抜くことで開錠する、でいいんですよね?」

「た、たぶん……」

 ユウナギは例の館で見かけただけなので、よく分かっていない。


「僕の考えたのは、弦のある部分、“かんぬき”って言えばいいのかな、それを鍵で押し出す単純なものです。もちろん精密に作らないと作動しませんが」

「うん?」

「内部でつっかえ棒になっているばねの部分を、鍵を通すことで(すぼ)めます。そしてかんぬきを押し出して、ついに外れるんです」

「ん、ん~~?」

 ユウナギの想像に及ぶ話ではなかった。


「じゃ、じゃあ、私に手伝えることあれば何でもするから! 言って!」

「本当ですか~~?」

「うん」

「じゃあ、これ作るのに全集中したいので、僕の分も舗装作業お願いします! 僕が作業やってないの見つかったら誤魔化してください!」

「わ、分かった……」

 それから彼は休む間もなく錠前作りに精を出していた。相当細密な工作のようで、彼は終始無言だった。ユウナギにはその熱中ぶりがとても微笑ましかった。


 そして彼が7日ほど頑張った結果。

「見てください!」


 元気とやる気はまったく十分な子どもだな、とナツヒは呆れながらも、ユウナギと共に彼の作品披露に目をやる。


 内部は閉じられているから分からないが、鍵の先端は凹凸で壁のような形状になっている。そしてそれを受け入れるための棒線状の穴が、錠前の隅にある。

 一目見た限りでは、どうやったらその鍵はその穴に入るのか、といったふうだが、サダヨシは鍵を持つ手首を捻ってするっと差し込んだ。差し込んだら更に手首を捻り、鍵を回し入れる。次にまた鍵を捻り倒す。

 そこまででもユウナギとナツヒは、今何やった?どうやった?どうなった? と目を丸くする。


 鍵がしっかり入り込んだらそれをまっすぐに押し、すると反対の側面からかんぬきが飛び出したのだった。


「え、え~~? どうなってるの~~?」

 たまげるユウナギに、サダヨシは得意げな顔だ。


「秘密です。……いえ、ご希望ならいくらでも説明しますが、もう閉じてしまってあるし、中を見ずだと、複雑なんですよね」

 ふたりはさらっと理解を諦めた。


「鍵も一応2本作りました。1本預かってください」


 どこで使うかは未定だが、ユウナギは念のため受け取った。


「これは試作品です。表面は鉄で作るべきなんです、木だと衝撃に弱くて」


 それでも初めて作ったにしては自信作のようだった。




お読みくださいましてありがとうございます。


「サダヨシの鍵」の説明ですが、古代中国の鍵の仕組み映像を見ながら書きました……けど「伝わるわけない orz」という情けない説明力貧困……

ですので、そこはさら~っと読み飛ばしてください;;


「横幅の長い、上辺の真ん中がくぼんだ長方形の形」←これなんかはつまり、こんな形→「凹」を言いたいだけなのですが……なんて表せばいいのやらで…。



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【商業作品】

『子爵令嬢ですが、おひとりさまの準備してます! ……お見合いですか?まぁ一度だけなら……』

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しっかり改稿してとても読みやすくなっております。ぜひこちらでもお楽しみいただけましたら嬉しいです。.ꕤ
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