② 初めてって決めつけるな! (※初めてです。
移動先は昼間だった。ふたりとも「移動した」ということを即座に理解した。ユウナギはナツヒに飛びついていたので、慌てて彼の胸から離れる。そして彼の様子がいつもと違うことを思い出し、距離を開けようとした。
だが当のナツヒは、ここで彼女を解放するつもりはない。彼にとっては彼女こそいつもと違っていて、ほぼ無意識にそれを問い詰めずにはいられないのだ。
「おい、こっち向けって」
「どこか来ちゃったみたい、探らなきゃ」
「なんでこっち見ねえんだよ!」
「なんのこと?」
などと軽く押し問答をしているふたりに。その頃、真っ直ぐ向かってくる人影が。それはふたつか。しかし彼らの視界に入るはずもなく。
「本当に、まず、ここはどこなのかとか調べなきゃ……」
ユウナギはナツヒを振り払い、走って行こうとした。そして小石につまずき、こてっと転んだ。
その間、全力疾走の足音がふたりに近付いてきて、その主が衝突するかというところだ。が、ナツヒはやはりそれどころではない。ユウナギのことで夢中の彼に、転んだ彼女に手を差し伸べようとした彼に、今まさに突進するかという瞬間。
小柄なその人物はぴたりと足を止め、ナツヒの頭を両手で押さえ、唇に唇を押し当てたのだった。
「!!?…………」
「…………???」
ここで、ナツヒは頭が完全に真っ白になったので、放っておくとして。
膝をついたままのユウナギの位置からだと、見えるのは小柄な人物の後ろ頭のみで、何が起こったかよく分からない。が、自分たちの間に他人が割って入ってきた、ぐらいの認識はある。
そこにもう一人やってきた。こちらは大柄な男だ。
そこでその小柄な人物は、ナツヒの口から口を離して宣言する。
「この人が僕の情人です。そういうわけで、もう諦めてください」
ユウナギはとっさに真に受けて、「んっ??」と小さく声を上げた。
追いかけてきたもうひとりの男は、狼狽の色を見せる。
「そんな……嘘だろう?」
「こんな白昼堂々口づけを交わす仲が、嘘のわけないではないですか」
「口づけ?」
ユウナギは「あ、今の、そういう……?」とふんわり思った。
「あと、このことは僕の両親に内密にお願いします。心配かけたくないので」
「分かった。君のことは……諦めよう。無理強いはしたくない……」
気落ちした大柄な男はトボトボと立ち去った。
「ああ、助かりました」
ユウナギの目に映る、この屈託のない人物は、顔立ちのとても可愛らしい子どもだった。
その場のユウナギの理解度を10段階で5とするなら、ナツヒは思考回路が働いていないので測定不可である。
「本当にありがとうございます。不躾な真似をしてしまい申し訳ありません」
「いえいえ」
ナツヒが固まっているので、ユウナギが代わりに答えた。
しかしナツヒを気付かせないことには、と、ユウナギは頬を叩いたりするのだが、まだ返事はなく。
「あ、あの大丈夫ですか?」
原因の張本人も心配になってきたようだ。
「まぁ急にね、人がぶつかってきたらそりゃぁもう驚いて、こうなっちゃっても仕方ないよね。ところであなたは……男?女?」
「僕はもちろん男です。名をサダヨシと申します! 兵士志望で歳は12です!」
彼は元気よく答えた。
「男の子だったかぁ……」
その時ナツヒがぴくりと動いた。意識が戻った模様。
「あ、大丈夫でしたか? 歯がぶつからないように直前で計ったんですけど、痛い思いをされましたか?」
「……いや……」
「そうですよね、僕も別に痛くなかったし!」
「直前で計ったって?」
ユウナギは興味があるようだ。
「どれほどの角度や圧力で重なり合えば、鼻や歯をぶつけずに押せるか、を寸でで考えてみました」
彼は嫌味のない笑顔で答える。
「へぇ~~。というか鼻や歯がぶつかることもあるんだ?」
「……おい……」
「はい?」
ここからナツヒが怒り狂った様は、ユウナギですら初見といったほどの暴発具合であった。少年はその場で地に額を付け平謝りすることとなった。
「ごめんなさい、まさか初めてだったとは……」
ナツヒが声にならない声を上げ更に憤慨するのを、ユウナギは隣でなだめる。
「まぁ、まだ12の子のしたことだし」
「でも僕も初めてだったので! 初めて同士の割りに、やはり事故にならずに済んで……」
「~~~~~~!!」
その日ナツヒの機嫌が直ることは最早なかった。
そこでユウナギはサダヨシの身なりを見て、彼が身分のある家の者であると判断した。
「父は邑の役人で、兄たちは中央預かりの兵士です!」
「じゃあ、暦は分かる?」
「今は分かりませんが……役場で尋ねれば。まず家に帰って……」
「家かぁ……私たち、旅をしてるんだけど。どこか泊まれるところないかな?」
ユウナギの割りには含んだ言い方をする。ナツヒが使い物にならない時は、彼女が穴を埋めるよう頑張るのだ。
「先ほど助けていただいたお礼に、父に頼んでみます」
「ありがとう! これで旅の第一関門突破だわ」
さすがに少年サダヨシのところは役人の家だ。ふたりはすぐに十分な寝室を、きちんと2室用意してもらえた。今はナツヒの泊まる客室に集まっている。暦はまだ分からないが、この邑は中央より西の方に位置するようだ。
「で、さっきの人はなんだったの?」
「えーっと、彼は僕の学問の師で、決して怪しい人ではないのです」
「でも、追われてたよね?」
「それがこの頃、彼から情人になって欲しいと申し込まれてしまい……。断っても聞いてもらえず……。先ほども、想い人と逢引きするからと逃げたら、追いかけてこられ……」
ユウナギですら、これには表情が固まった。
「奥方にも悪いし、僕とそんなに歳の違わない子たちもいるし、気まずくて仕方ないですが、それでも学問は続けたいです……」
彼の言うには、彼の父は元兵士で、兄たちも今は中央で兵として勤務しているらしい。もちろん彼もそうなるように育てられている。
「父からは、学問はそれほど必要ないと言われていますが、僕は学んで損はないと思っているので、個人的に彼に頼みました。しかし今こうなってしまって」
「あなた可愛いもんね……」
ユウナギはそれしか言えなかった。
「そろそろ独学でやっていくべきかと思い直しました」
「頑張って」
「それに僕はやっぱり兄たちのように、凛々しくて頼れる兵士になりたいんです」
しばらく、ものすごく興味がないといった態度で無視を決め込んでいたナツヒだが、そろそろ聞き耳を立てるようだ。やはり兵の話となると。
「まずは武術の腕を磨くことに専心します。あ、そうだ。明日この邑の男子の、武芸を競う催しがあるんですよ! 僕も出るんです!」
「そうなんだ、頑張ってね。応援に行っていい?」
「ぜひ!」
「武芸の大会だって」
ユウナギはナツヒにお伺いをたてた。
「見に行ってやるよ。暇だし」
翌日、大勢の男子たちが近所に集まっていた。その催しはサダヨシの父の主導で開かれるようだ。邑中の齢8から15の男子が挑戦するというのだから、参戦者は数十人にも上るが、大人が適当に割り振った勝ち抜き戦で、サダヨシは初戦にて敗退していた。
彼はその後、ぼーっと強者たちを眺めていた。ユウナギも側で見ていたが、そこで彼に言葉を掛けるのはよしておいた。
本文、設定の説明不足なのでこちらで。「高官」と「役人」についてですが、各邑に配置されていて、高官はごく少数で、中央からの派遣、トップの血筋。役人は複数名で現地採用もある。みたいなイメージです。(古代じゃなくて平安時代みたいな役職配置……)
100部分に到達しました! お付き合い感謝です♪
記念すべき(?)100話目が、「ナツヒ、男にファーストキスを奪われるの巻」(白目)
前半「ふんだり」(落とし穴に落とされる)後半「けったり」(男に略)な彼でした…。





