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第八話 村は村でも差異があるというのなら


「ようこそおいでくださいました。『エンスト村』へ。()無い村ですが、ご案内致します」


歓待を受ければ、人は自分が特別なのだと感じるだろう。王族、貴族、聖職者なんでもいい。そう思い続ければ、下の者を真に理解出来ない人間が見事に完成する。しかし万人がそう感じるのかと言われればいいえだ。


生い茂る原生林に囲まれた集落エンスト村。領主が大規模な開墾計画の先駆けとして造られた村である。しかしその計画自体は財政問題で当初に破綻してしまい、この村が造られた以外には、計画による領地の変化はなかった。しかも村に資金を回す余裕もなかったのか、当初は少し開けた土地に、適当に選別された数世帯の人間が放り出された形となった。もはや何かの刑罰に等しいと言える仕打ちだが、蒙昧な民は烈烈たる現実を受け止めた。


大規模な自然を全身で感じられるというメリットはあるが、それ以上に他の村より不遇なことが多い。


「この村は元々上級奴隷たちが移住させられて出来た村なのですよ」

「奴隷というとあの奴隷ですか?」

「ええ…。この地域の奴隷制度は遥か昔に廃止されましたが、面影は今でも多く残っていますよ。同じような村は、少なからず他の場所にもあると聞きます」


村の成り立ちは把握してなかったが、この村が一般的な村とは少々の差異があることは知っていた。そのことを把握したうえでこの村に来た理由、それはその差異が関係していた。


女寡に案内されるがままにブバルディアは土道を歩く。すると村並みが、ブバルディアが求めていることになったための弊害を示してくれた。


「…畑の数が少なくありませんか?」


老女がゆっくりとした足を止めれば、ブバルディアが期待していた答えがやってきた。


「ほっほっ…やはり学がある方はお目が高いですね。そうなのですよ。この村には村人全員を食わして、その上で領主様に納めるだけの畑はありません」

「…てはどうして?」


問いに老人は指を村のすぐそばにある生い茂った山へと向かわせる。旅人はそれに応えて視線を向ければ、ゆっくりと年季の入った口が開かれた。


「…この村はですね、見ての通りに辺りが山に囲まれていて、このように村として活動領域を広げるのは難しいのです。それに、出来たばかりの当時は、肉体労働しかしてこなかった奴隷しかいませんでした。精神的にも、肉体的にも繋がりのない大人たちは、そのままでは飢え死にする一方だったのです。そこで領主様は最低限の生活を保させるために、特例として我々の村には、他の村より多くの狩猟が認められたのです」

「多くの狩猟ですか?」

「はい…。知っておいでだと思いますが、通常何処の村も規定された以上の狩猟は禁止されています。それは普通、村は自分たちの畑だけで食料を賄えるからです。しかし二度目になりますが昔のこの村はそうではなかった。今もなお畑が少ないのは、その特例が今なお適応されているからです」


(狩猟が制限されているのはそれだけではないと思いますが、大体は分かりました)


ブバルディアは話が終わり歩き出した老人を背に、自分が得た情報が正しかったと安堵した。


その後は特に目立った会話はなく、二人は一つの小屋の前で止まった。


「辺鄙な村でして、空きがある家はこの小屋しかなのですよ。中は軽くですが手入れされておりますので、どうぞごゆっくりなさってください」

「はい。ご親切にありがとうございます」


老婆は何かあれば村の誰かに遠慮なく言ってほしいと言って、この場を後にする。


旅人は小屋に向き直り、年季の入った木製の扉を開けた。





草と木が生い茂った道を歩く一人の少年。


少年は村から少し離れた場所にある、ある所へと向かっていた。


「土地勘がないから言われた通りに進んでいるのか分からない…」


その少年とはブバルディアその人。彼は案内された小屋に荷物を置いて直ぐ、わざわざこの村に来た理由のあることを見るために、村の人に聞いて、森へと向かったのだ。


「案内まで頼むべきだったでしょうか…。たられば言っても仕方がない」


ブバルディアが育った都市クードは、都市とだけあって立派な街並みがある。都市近くの自然はとっくのとうに開拓されており、都市の外にも出ないため、自然と触れ合うことは殆ど無かった。


都会っ子は自然に対するノウハウを所持していない。剣や魔法を操ることが出来ないブバルディアは、特に自然に気を付けるべきと言えるだろう。


自然は決してやさしい存在ではないのだから。


ブバルディアは森の中に敷かれた、舗装された道を歩き続ける。小さな歩幅と傾斜により、聞いていた時間より多くかかってしまったが、目的であった狩人の小屋まで来ることが出来た。


「はぁはぁはぁ…ちょっと…休憩」


クードに居た頃は運動をしていなかったため、ブバルディアは見た目の通りに体力がない。このようにばててしまっているが、これでもマシな方だ。旅人になってからは集落と集落の行き来に歩いているので、体力は一か月前よりある。それでも年相応の健全な男子ならば、今ブバルディアが歩いてきた道を歩いても、ここまで疲れることはないだろう。どうしようもできないというのは、必ず存在しているのだ。


近くの木に寄り掛かり、座るブバルディア。


木と木の間をすり抜ける風が、自然の匂いと共に頬をなでる。


「…ふぅ」


静かな世界の中、ブバルディアは自身の想定とは違う出会いが待っているとは知らなかった。


そして、その出会いがもうすぐそこにあるとは、思いもしなかった。


「…?お前…誰だ?」


投稿が予定より遅れました。申し訳ありません。残念なことに次話以降も投稿頻度が下がってしまうと思います。四月の一週間以降なら頻度が少し増えると思いますが、それまでは一週間に二回程度の投稿になってしまうと思います。


次話投稿予定日は3月28日ですが、前後する可能性が高いです。

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