犬を語る
『犬祭3』『犬祭4』参加小品です
ツンと気取った感じの話ですので、そういう話が嫌いな方が、次々話のエンタメ系の『パブロフの犬』に進むのが吉だと思います
1. 無鏡境
2. 運動会
3. 忠犬哀歌
4. 解説
1. 無鏡境
その土地には犬が一匹と猫が一匹しか住んでいなかった。
猫は自分の事を犬だと思っていた。
だから、嬉しい時に尻尾を振るべく努力したが、
尻尾はどうしても言う事を聞いてくれなかった。
犬は自分の事を猫だと思っていた。
だから、音を立てずに歩くべく努力したが、
爪が音をたてるのはどうしても防げなかった。
猫は自分の父親がその犬だと思っていた。
だから、いつも犬を恐れていた
犬は自分の母親がその猫だと思っていた。
だから、いつも猫を追っかけていた。
その土地には犬が二匹と猫が一匹しか住んでいなかった。犬はダックスフンドとハスキーだった。
ダックスフンドは自分の父親が猫で母親がハスキーだと思っていた。
だから、自分は父親似だろうと考えた。
猫は自分の父親がダックスフンドで母親がハスキーだと思っていた。
両者から長所ずつを受け継いだと思って嬉しかった。
ハスキーは猫とダックスフンドのどちらが自分の父親か分からなかった。
だから、考えるのをやめて犬らしく振舞う事にした。
written 2005-5-15
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2. 運動会
イヌ科の4匹が集まって、運動会を開いたそうな。
1. 短距離走
直線は狼、しかしカーブを曲がるという事を知らずに犬に抜かれて2位でゴール。狐は追い掛けられないと本気で走れないので3位、狸は……狸は太鼓を打って声援の見物。
2. 走り幅跳び
瞬発力で狼にかなうものなし。しかるに、その狼の背中に乗っかって狡をした狐が優勝。
3. 借り物競走
狐と狸は信用が足らず誰も貸してくれない。犬は行儀良く何かを貸してくれるのを待って時間切れ。結局、欲しいものを半ばその迫力で貰った狼が1位。
4. マラソン
途中まで仲良く、というか牽制しながら走るも、全員短距離型なので途中で昼寝。その時、狸寝入りでこっそり出し抜いた狸が優勝。
という訳で全員金メダルを貰いましたとさ。めでたしめでたし。
written 2005-5-21
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3. 忠犬哀歌
私の元で彼女が働くようになって1年になる。
動物に例えたらネコ。色は黒。その大きな目と甘い鳴き声は確かに猫のものだ。もちろん夜行性。そして不吉。
その姿が目の前を横切るや、天使のような容姿と、無邪気な言葉は、堕落へと誘う。捕まったら最後、忠実な下僕に成り果て、かしこまり、尾を振り、喘ぐ。幸せな不幸の始まり。悪魔は何よりもまず魅惑的でなければならない。そしてこの黒猫も、、、。彼女にかしこまる我が同胞を、私はただ歯がゆい思いで眺めるだけ。
それでも私は黒猫を放さない。なぜなら、白い猫でも黒い猫でも鼠を捕る猫は良い猫だから。そして、鼠だろうが犬だろうが獲物は獲物だから。獲物を捕れる猫は役に立つ。だから彼女を飼っている。悪魔と言われようとも、狗と言われようとも。
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猫だから、目先の一つの事が気になると、他を全て忘れて、一心にミャーミャー騒ぐ。そのくせ、結局食べ切れず、ほんの少しだけ楽しむや、そっぽを向く。
猫だから時間にルーズ
「ちゃんと時間通りにきなさい」
『だって、Aさんも私を待たせたのよ』
Aさんが彼女を待たせたのは1回だけ、それも10分。彼女は毎回15分以上遅れる。
猫だから経験からしか学ばない。
「これは長年の経験からこうする事になっているだ」
『だって、こっちのやり方が楽だもの』
ガチャン。
『こうこうこういう理由だから駄目だって、前もってちゃんと言ってくれなきゃ駄目じゃないの』
簡単に全てのパターンの事故が予期出来るようだったら、長年の経験なんか要らない。
猫だから聞き分けは悪い。
「プレゼントなんて、あまり常識的ではないなあ」
『どうして? 私がやるんだから好きなようにさせて!』
翌日
『なによ、あの冷たい人。酷い目に遭った』
黒猫の会った人は常識に従っただけなのに、、、。
一旦思い込んだら、二度と修正しない
『あの人、継父だったんだー!』
「違うよ、僕はあの子の生まれる前の恋のなれそめから知っているけど」
『何、言っているのよ、私は本人に聞いたのよ』
質問の意味を取り違った友人が、違った答えをしたのだろう。
超楽天的で、自信過剰で、世界が自分の回りで回っていて、、、。
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いかに猫でも仕事はする…働いている時に限っては。
猫がなぜ1日14時間も寝てられるか知っているかい? それは、一瞬の集中力で1日の仕事を済ませてしまうから。だから、怠け者は仕事ができる。だから、同じ年頃の男の子女の子は馬鹿にしか見えない。それが彼女の自軸論理だ。
そんな彼女の前に、近い将来の飼い主を自認する犬たちは同じ所をぐるぐる回るばかり。そんな無駄すら、慣れてしまうと日常の楽しみと変化する。出口の無い道…彼女を得るまでは。
しかし、果たして捕まるか。
抜群の運動神経と、そのしなやかな身体で、彼女は、犬たちをときめかせ、くぐり抜け、高飛び。
この猫は決して犬とは寝るまい。
written 2006-6
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4. 解説
はあ、何故、犬が出てくるかって? そりゃ走るのは犬に決まっているからだろう。
なに、犬である必然性が無い? じゃあ、何だね、猫や鼠や兎にしろって言うのかい? 連中の走る様子が絵になる筈がないだろうが。
ああ、馬でも良い筈だって? 君ねえ、今の日本に馬を走らせる事の出来る土地がどれだけあると思っているんだ?
えっ、犬の種類? そんなのどうでも良いではないか。
じゃあ、ブルドッグやダックスフンドでも良いのかって? 君ねえ、走って美しい犬に決まっているじゃないか。常識を持ちなさい、常識を。
河原を走っているなら、ついでに水にも入ったんじゃないかって? もちろんそうさ、と言いたい所だが、違うと見たね。
理由かい? 違う違う。前日の雨による増水のせいじゃない。走って水しぶきを上げれば、それだけで一文になる。それが書かれていないだろ?
でも水たまりぐらいはあるだろうって? そりゃあるかも知れないが、場所は河原だ。水はけは良いんじゃないかな。
石河原か草河原かって? 水に入らずに石河原の上だけを走りたがる犬っていないんじゃないかな。但し、走って行く様子が見えているんだから、低い草しかあり得ないね。
どうして犬の気持ちが分かるのかって? じゃあ、何、君は犬がは走りたがらないとでも思ってるのかい。
ああ、用事があるからじゃないかってか? それは犬の様子を見れば分かるよ。走りたくて真直ぐに走っているのか、何かを追って走っているのか。
誰かの象徴かって? それは読者の勝手さ。ま、何処かの国の大統領のプードルでないことは確かだがな。
えっ、それじゃ意味の無い文章なのかって? もちろんそうさ。
犬が走って行く。
何故走っているのか?
走りたいから。ただそれだけ。
雨上がりの日本晴れの河原。
written 2005-5-15