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猫・犬・ペンギン等の短編集  作者: 第48代我輩
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日記から(1000文字超短編)

2009年(福島原発事故の2年前)に『元気の出る話』千文字超短編企画に出したものです。

あの頃の原子力事故と言えば1999年の杜撰な奴でした

 朝、妹が

「太郎先輩が結婚するって」

 と言ってきた。馬鹿め、

「太郎さんと付き合っているの」

 ってのが正しい挨拶だ。俺はオーソドックスにこう告げた。

『二郎が転勤するらしい』

 二郎はモテル男No1で妹も熱を上げている。


 仕事場に行くと、人事部の花子が

「ねえ、現地採用の面接をしてくれない?」

 海外出張話に具体性を持たせる工夫は認めるが、まだ甘い。

『そういう仕事は二郎がいいよ。君が頼めば確実にイエスだろう』

 と切り返す。花子は急に目を怒らせて

「なんで知っているのよ!」

 これって、切り返しの積もりかな?


 メールを開くと、

「緊急会議があるので午後4時に会議室に来て下さい」

 明美は芸が足りない。この手の連絡は必ず秘書経由だ。面倒なので

『会議室は空調の故障で使用禁止ですよ』

 と返事しておいた。


 昼食に行くと二郎に会った。

「パリ出張、一緒に行こうと思ったのに」

 にこやかな顔だ。花子に話を合わせたな。ここは離間策で行こう。幸い花子はいない。

『だって花子に悪いだろ』

 二郎は驚いた顔で

「いつ知ったんだ!」

 予想していやがった。負けてはいられない。スルー気味に

『まあ、お陰で妹も決心がついたようだ』


 郵便受けを見ると、人事異動の告知が入っていた。明美は社長秘書に栄転したそうだ。あれ?


 午後の休憩で太郎に会った。

「北は原爆開発って噂だ」

 米ロ以外があれで戦争仕掛けたら戦犯死刑だぞ。ネタにすらならん。

『バケツを使ったウラン臨界テロを日本の労務者にやらせるんだって』

 手本を見せてやったら、隣の明美が耳元で囁いた。

「何処まで知っているの!」

 引っかけの高等技だな。乗せられたら負けだから、朝のネタで囁き返す。

『空調の中に盗聴器があるって噂だけさ』

 美人の恐怖を感じた刹那、太郎が

「何の話をしてるんだね」

 と暢気に言って来た。

『君の婚約話さ』

 妹のネタを流用すると、

「ああ、妹さんに昨日言っておいたものな」

 昨日? さっきのボケはフェイントだったのか。横では明美が

「私に教える目的は何?」

 挟撃にかけて来る。こいつはヤバい。

『そりゃ、愛があるからさ』

 起死回生の一発を放つ。太郎は意味ありげに明美と顔を見合わせて笑った。

「もう遅い」

 今年の四月馬鹿は完敗だ。


 あれから10年になる。二郎と花子には9歳になる娘がいる。フランスとの二重国籍だそうだ。明美は直後に姿を消した。なのに太郎は俺に感謝して、挙げ句に妹と結婚した。その俺は何故か安全管理部長で、ともかく元気だ。


written 2009-5-4 (revised 5-30)

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