番外編 2
「いいですか?次のことは必ず守ってくださいね。うちのもの以外には付いていかないように。ユーリとカインが側につきますが私から離れないようにしてください」
「はい、わかってます」
私たちは夜会に向かう馬車に乗っていた。王城まではすぐに着くので話も手短だが、おそらく控え室でも同じ話をされると思う。
今日の衣装はルークと対になっていて、二人とも白と蒼色のグラデーションになっている衣装で、生地にはサファイアがちりばめられている。領地で産出されたもので、サファイアの宣伝も兼ねているが、刺繍と合わさって、とても素敵なドレスとなっていた。
馬車を降りるとルークは私の腰を引き寄せエスコートをする。私はルークのかっこよさに未だに顔が赤くなるし、このかっこいいルークが旦那様かと思うとうれしくてたまらない。
「ルークがかっこよすぎる……」
小さな声で言ったにもかかわらず、ルークには聞こえていたようで
「アリスに言われるとうれしいです」
と、へにゃりと笑う。私は内心身悶える。
控え室ではやはりあれこれ話をされ、お兄様には相変わらずだねと声をかけられた。
王族の入場に久しぶりの私は少し緊張する。夜会は1年以上ぶりだ。社交会に全く出てないから、知り合いが増えない分楽ではあるが、たまには着飾ってルークとお出かけしたい欲はずっと持っていた。
私たちが入場すると歓声がわいた。社交に参加しない夫婦が来たから珍しいのだろう。
「ルーク、私が一番したかったことはルークとのダンスです。カインとユーリに特訓されてたので、かなり上手になりましたよ」
私はルークの耳元に小声で伝えた。この1年とちょっと、休むことなく、専属執事のカインと護衛騎士のユーリ親子に鬼のような特訓を受けていたのは今日の日を夢見てのことだった。
「ルークと踊るのが楽しみです」
「踊るのなら屋敷でもやってましたよね?」
ルークは不思議そうにしているが、女心は少しだけ複雑なんです。
「ルークと踊る姿をみんなに見てもらいたいし、なにより、ルークに私が着飾ってきれいな格好をしているところを見てもらいたいのです」
「くっ……」
くっ……?
「あなたという人は……。だからそのような顔を外でしてはいけないと何度も言ったのに……。帰ったら閉じ込めますからね」
ええ?
どうして?
ルークを見上げるとニッコリ笑っていた。
冗談?かな?
いよいよダンスの時間になって、私たちはホールに出た。結婚式以来の公でのダンスは最初こそ緊張したものの楽しくて仕方がなかった。チラッと見えたカインの顔も満足そうにしていた。
3曲続けて踊るとさすがにふらふらになる。今日はここまでかなぁと思っていると、バルコニーの方にルークに連れられて行った。
「たくさん踊ったら疲れましたね」
このバルコニーは会場との間にカーテンがあり、誰からも見えない位置にあった。
ルークは私に果実の入ったジュースを渡し、自身はワインを口にしていた。
「一緒に踊っていただけませんか?」
と、ふいに聞こえてきた声があった。
カーテンで見えないが、どうやらカインに声を掛けたようだった。
「仕事中ですので」
「あら、今は休憩中に見えますが?」
「仕事中ですので」
カインの声いろからすると何の感情もない言い方なのが分かる。
「なによ、そんなに召喚女がいいわけ?」
あ、キレた!と思った瞬間、私はルークに耳を塞がれ、その上、濃厚なキスをされた。口の中を縦横無尽に動き回る舌と耳を塞がれたことでくちゅくちゅと耳の奥に響く音が合わさり、私はルークに必死にしがみついてなんとか立っていた。
しばらくすると、ルークに抱き抱えられ私はやっと力を抜くことができた。
「帰ろう」
そう言うと、レイとカインとユーリに囲まれるようにして馬車まで行った。
* * *
寝る準備をした私はベッドに入りルークに聞いた。
「カインは踊ったりしなくてよかったのですか?カインも貴族の1人ですよね?」
「カインには好きな人がいますからね。大人なんですからほっておきましょ」
「そうだったのですか。知りませんでした」
「それよりも覚えてますか?」
「?」
何のことか分からず首をかしげる。
「あんな顔をするから閉じ込めますって言いましたよね?」
「!!じょ、冗談ではなくて?」
「私はこの手の冗談はいいません」
ニッコリ笑うルーク。腰が引き気味の私。
「濃厚な日を過ごしましょうね」
あっさり捕まり、ルークの宣言通り濃厚な数日を過ごすことになった。
「ルーク様は濃厚な日を過ごしたいがために、アリス様がやらかすことを想定して夜会に出席した」
とはカインによる後日談である。
番外編続きです。
ぼちぼち載せますのでまた見に来てください。




