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残酷な描写があります。
ご注意ください。
* * *
「リンどうしたの?」
「ん?いつの間にか寝てたみたい」
「疲れてたんだよ。今日は俺がご飯作るから休んでて」
「リューンありがとう」
* * *
「リン仕事の時間だよー」
「待ってー!もう支度終わるからー!」
「手伝おうか?」
「大丈夫!あとバッグ持つだけ!リューン、お待たせ」
「じゃ、行こっか」
* * *
「今日も書記官がんばるんだよ」
「リューンも騎手様がんばってね」
顔を見合わせてお互いにふふっと笑う。
「帰りは迎えに行くから待ってて」
「あら、今日は早いの?」
「その予定だよ」
「それなら帰りにこの前のお店で食べて帰りたいわ」
「あぁ、おいしかったね。分かった!帰りに寄ろう」
「楽しみにしてる」
* * *
「 そろそろ終業時間ね」
「リンさーん、伝言きてるよー」
「ありがとう」
紙を受けとるとリューンからだった。
『すまない。残業になってしまった。先に帰って家で待っててくれ、リューン』
「やっぱりねぇ。残業がない日のほうが少ないんだもの。おいしいものでも作って待ってましょうかね」
「リンさん帰るの?送ろうか?」
「まだ明るいから大丈夫よ。ありがとう!」
「今日は通り魔が出てるって話だったから気を付けて帰るんだよ」
「ありがとう。お疲れ様」
* * *
「うん、おいしそうにできたわ。リューンまだかしら?」
あ、戸が開く音がした。リューンが帰って来た!
食事をテーブルに用意しながら「お帰りなさい」と声をかけた。
「んっ……」
腰に激痛が走った。
ゆっくり後ろを向くと知らない男がニタニタ笑っていた。激痛は腰をナイフで刺されたことによるもので、私は立てなくなり崩れるように倒れた。
「うまそうだな」
男は椅子に座ってリューンのための食事を食べだした。私はそれを見ながらそのまま意識を失った。
* * *
「まだ生きてたか。飯うまかったぜ。お礼にそのまま帰ってやるよ。運がよけりゃ助かるかもな」
男はナイフを私から抜かずに外に出ていった。
血がゆっくりと失っていってるのが分かる。きっと私は助からない。まだリューンにお腹の子のことも伝えてないのに……
* * *
「リン!リン!目を覚ましてくれ」
「リューンさん、お医者さんがきました」
「先生!リンが!!」
「これは……。
リューン、よく聞け。
残念だが、リンは助からない。出血の量が多すぎる。通常この量の血液が流れたら即死なんだ。
ナイフが刺さったままだから長い時間ゆっくり失血していったんだろう。だからまだかろうじて息はある。傷は塞いでおくが失った血は戻せない。すまない。
こう言ってはなんだが、リンはお前が帰るのをがんばって待ってたんだな」
リューンの声が聞こえる。リューンに抱き寄せられてるようだ。目が開かない。開けられない。なんとか一目だけでもリューンに会いたい。
うっすらとぼんやりとリューンが見えた。リューンが泣いてるのが見えた。
「リン!待たせてごめん。ただいま」
「ご……め…」
「謝らないで。リン愛してる」
「リュ…あ……い…し……て……る…」
だんだん目の前が霞んでよく見えない。リューンの声が聞こえづらい。朦朧としてくる。
「リン、昨日食べに行こうって言ってたよね。元気になったら一緒に行こう。デートもいっぱいしよう。これからおじいさんになってもおばあさんになっても一緒に笑ってすごそう。だから、だから…」
「リュ……あ…り…が……。」
「リン!リン!」
* * *
「リューン、ごめん…ごめんなさ…」
急に目が覚めたが、まだ混乱していた。
あ、違う。ここは……私の部屋だ。リューンは前世……。私はこっちに戻ってきたんだ。私、前世の夢を見てた。私、前世は殺されてたんだ。
部屋のドアが開く音がした。ドアの方を向くとルークが慌てて走りよってきた。
「アリス、気がついたんですね。よかっ…た。どうして、どうして泣いているのですか?」
ルークが私の頬に手を当て、涙を拭った。そこで初めて私は泣いていたことに気がついた。
「ルーク様はリューンだったんですね」
ルークが驚いた顔をし、ゆっくりと私を抱き寄せた。
「意識を失ったかと思ったら発熱をして3日間も眠っていたんですよ。前世の夢を見てたんですね」
私はそっとルークの腰に腕を回し「お帰りなさい」と言うと、ルークが「遅くなってごめん。ただいま」と涙声で返してくれた。
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