ふるさと
「アレン、この曲は何?」
ここはアレンの部屋。
今、彼は就寝前のプライベートな時間をユーサと共に過ごしている。
彼は自分の歌を披露してから、彼女の前ではこうして鼻歌まじりに持ってきたテープをかけてやってはユーサに聞かせている。
「クスクスクス……」と金属音の快い笑い声が室内に響いた。
「アレン、あなたの歌声と今流しているテープの曲と、同じような歌だけど違うように聞こえるわ。どうして?」
ユーサの質問にグッとくるアレン。
「つまり、それは……」
「でも、私、どちらも好きよ。ううん、あなたの歌い方の方が好きかも」
彼女にそう言われると、アレンは何でも許せる心境になってしまう。
「さぁ、もう寝なきゃ。最近、寝不足気味だから」
「あら、ごめんなさい、遅くまで起こしていて」
「いや、僕が君を呼んだんだから。君と話してるとつい、時間がたつのを忘れちゃって」
「私もよ、アレン。楽しい時間ってアッという間に過ぎちゃうのね」
「明日はどんな曲にしようかな。ねぇ、ユーサ、どんな曲が聞きたい?」
「歌って、恋の歌が多いのね。今日聞いたあの歌も恋の歌?」
「あの歌って?」
アレンの言葉を受けて、ユーサは歌った。
「ああ、その歌はふるさとを歌ったものだよ」
「ふるさと・・・?」
「生まれ故郷さ。生まれ育った土地には愛着があるんだ。郷愁って聞いたことあるだろ? 懐かしくて愛しい。そんな感情を呼び起こすものさ」
「ふうん……」
ユーサには故郷と呼べるものはなかった。
しかし、このふるさとを歌った曲には何か感じるものがあった。
「ユーサに僕の故郷を見せてあげたいな。すごくきれいなところなんだ。緑の丘があってね、森もある、川もある。夏にはよく川遊びや釣りをした。動物もたくさんいるんだ。春になると、たくさんの色とりどりの花が咲いて、虫たちも寄ってくる。夏になると、白い入道雲が出て、海の水平線上に浮かんでるんだ。海の中もすごくカラフルだよ。生き物って面白いね。なんであんなに多種多様な生物がいるんだろう。見ていると飽きないよ。秋になって、森が紅葉しだすと、僕らは木の実を拾いに行くんだ。動物たちは冬仕度を始めてる。冬はひっそりと安全な家にいてぬくぬくと楽しい時間を皆と過ごす。クリスマスを祝ったりね」
アレンがそう言って故郷を思い浮かべるように、ユーサは彼の言葉を頼りにアレンの故郷を想像した。
「いいところなのね。うらやましいわ」
「ユーサ、君の故郷って?」
「私の……。転勤の多かった父について居住を転々とした記憶ならあるわ。でも故郷って言われると……。再生してからは外の世界を見ずに、いきなりアカデミーに連れてこられて、そこで外との接触を保たずに育ったの。卒業して、こうして船に乗るまで、生で外の世界を見たことはなかったわ。だから、始めて本物の景色を眺めた時は、すごく感動したの。素晴らしいって思ったわ。こんな世界があったなんてねって。特に、宇宙から見たこの星の姿が一番美しかった」
それまで黙って耳を傾けていたアレンは、彼女の最後の言葉を聞くと、
「それじゃあ、君の故郷はこの青い星だね」と微笑んだ。
そばには淡い光の輪を放つ、地球のホログラムが浮かんでいた。
「僕の大事なお守りなんだ。僕と君の故郷だよ」
「アレン……」
「僕たち同じ星で生まれ育った同じ故郷を持つ人間同士って分けだ。共通項がいっぱいあるね」
アレンはいつもユーサが人間離れしていることを口にすると、スケールを大きく考えてその中にユーサを包み込んで人間らしさに結びつけてくれる。
ユーサはこの青い星のように柔らかな光に包まれているような気がした。




