歌
「ユーサ、僕はね、歌があんまり上手じゃないんだ」
皆が寝静まったあと、ユーサとアレンはこうして密かな会話をかわす。
ほとんど、アレンが一人でしゃべってるようなものだが、それは、悩み相談やうち明け話に近かった。
アレンは消灯した自室のベッドに横になり、ユーサに話かけていた。
「それでよくからかわれたりしたんだけど、別にそれがそんなに恥ずかしいことだとは思ってなかったんだ……彼女に言われるまで。好きな子にある日、あなたって歌が下手なのね、って言われた時はすごくショックだった。それからだよ、僕が歌わなくなったのは。皆の前ではね」
アレンが一呼吸つくとユーサは言った。
「どんな歌を歌ったの?」
「……」
沈黙が瞬間、暗闇を制したが、やがて、アレンの優しい声がその空気に流れた。
メロディだった。
小さく、ささやかな、でも、心の込もった歌声。
「その歌なの?アレン」
「うん」
「きれいね」
「……」
「私、あなたの歌う声好きだわ。アレン、歌ってくれてありがとう。私の前では歌ってくれるのね?」
「そりゃ、もちろん。君は親友だから。それに君にはなぜか、僕は素直になれる。君がそうだから」
その時、頭上から、天上の音楽のような響きが舞い降りてきた。
ユーサの歌声だった。
さっきのアレンの歌。
彼女が歌ってる。
「天使の歌だね、ユーサ」
彼は歌の穏やかな光に包まれて眠りに落ちていった。
(なんだか懐かしい光の海……ユーサが笑ってる。黒い髪の美しい瞳をした少女が笑ってる。僕を優しく包み込みながら)




