恋
「なんか……最近ロッド叔父さんの様子が変だけど、なぜだか知ってる?」
「えっ……!?」
自室にいたアレンがいきなり通信開放したと思うとこんな質問をしたのでユーサはびっくりした。
「ユーサ?」
「あっ、あの、ごめんなさい、何て言ったの?」
「……ロッド叔父さんに何かあったのかなと思って」
「……いいえ、別に特にないと思うわ。なぜ?」
「なんだか、上の空みたいでさ、時々、祈ってるし」
「それは彼の癖だわ、乗客の安全を祈ってるのよ。ホラ、私、これが初めてでしょう?」
「そうかなぁ……」
「あっ、ねぇ、アレン。私、今、少し時間空いてるの。ロッドが操縦握っててくれるし、今、航路は自動運転だから。私、あなたの話を聞きたいわ」
「僕の話? 別にいいけど」
うまく話題を変えられた。
でも、ほんとは、ロッドに「俺が操縦をしているから、君は、例の二人を見はっててくれ」と頼まれていたのだ。
アレンと通信しながらも、ユーサは例の二人の監視も怠らなかった。
今のところ不穏な動きはない。
「何を話せばいいのかな」 アレンは手に持っていた本を意味もなくパラパラとめくった。
「学校のことを話して。どんな感じ?」
「どんな感じって……色んな人間がいて面白いよ。先生も変わった人多いし。 ユーサも学校行ってたんだろ」
「うん……でも、私の場合は、生前は家庭教師から教わってたし、再生してからは学校っていうより訓練校よ。実用的なことを習うから必死だわ。入ったときから将来が決められているんですもの」
「厳しそうだなぁ。レクリエーションなんてないの?」
「えっ?」
「つまり、勉強だけじゃなくて、休養や遊びも必要だろ」
「どんなことをするの、具体的には?」
「う……ん、たとえば、ダンスパーティ、対抗試合、校外学習と称して遊園地へ行ったり、遠足に行ったり……。あと、フェスティバルとかさ」
「フェスティバル?」
「学校のお祭り。クラスやクラブ別に色んな出し物をするんだ。劇をしたり、研究を発表したり、ゲームをしたり、最後にはダンスになるけどね」
「ふうん……楽しそうね。あなたもダンスを踊るの?」
「ああ、もちろん。じゃなきゃ、女の子誘えないよ」
「女の子?二人で踊るものなの?」
「普通はね。男は踊りたい相手の女の子に前もって約束の申し込みをするんだよ。 一緒に踊って下さいって」
「……それって、好きな子に対して?」
「もちろん。だって、そうだろ?」
「……ふうん」
「ふうんってユーサ、君、人を好きになったことないの?」
「……人を……?……いいえ、ないわ、まだ……」
まだ、とは言ったが果たしてこれからもあるかどうか……。
「あなたはあるの? アレン」
「えっ……」
急に口ごもるアレン。
ユーサが例の二人を注視していなかったら、アレンが赤面するのに気付いただろう。
「うん……まぁね」
「聞きたいわ」
ユーサのてらいもない言葉にドギマギするアレン。
「ユーサ、あのね……こういうことはあんまり……」
「普通の人間だったら、そういう感情……人を好きになること知ってるわ。恋っていうんですってね」
「……」
アレンはやっと、ユーサが面白半分ではなく、真面目に、恋愛感情について知りたいと思っていることがわかった。
「……僕の初恋だったんだ。隣の家の女の子。小さい時、よく遊んだんだ。その日、その時まで、何とも思ってなかったのに、ある日突然、彼女に再会して……きれいな女の子になった彼女を見て、僕は恋に落ちた」
「……初恋……きれいな言葉ね」
「君もいつか恋をするよ、きっと。いつか突然にね」




