祈り
「ユーサ、どうしたの? 考えごと?」
「えっ……」
いけない、船のくせにボーっとしてた。
アレンが不思議そうに自室の視覚センターに近寄る。
「何でもないわ」
アレンには言えない。この船にスパイが乗ってること。
「ごめんよ、勝手に呼び出して。ちょっと話を聞いてもらいたくてさ」
「話……?」
「話というよりは相談、いや力を貸して欲しい、かな」
「力?」
「君の頭脳をちょっとお借りしたい」
「まさか、勉強を見てほしいっていうのじゃないでしょうね?」
「まぁ……そんなとこかな」
「それならダメよ。私はあなたの教師じゃないんだから。こうしてあなたと私的な会話をすることさえ、本当はいけないことなのに」
「わかってるよ。でも、これは、僕の夢に関することなんだ。学校の勉強とは関係ない。自分自身の為の勉強なんだ」
「夢……?」
「ああ、その内容については今言えないけど、将来いつか実現したい。その為に今、君の力が必要なんだ」
ユーサはその言葉に心が揺れた。
夢……人が心に描く希望。
自分はAI船として生まれてきて今まで希望を持ったことがあるだろうか。
夢を描いたことが?
「……いいわ、アレン。少しだけなら」
「やった! ありがとう、ユーサ」
ユーサは内心アレンをうらやましく思った。
人間は自由だ。
「また、わからないことがあったら聞いていい?」
「ええ、もちろん、緊急の時以外はね」
「ああ、忙しいときは遠慮するよ。それじゃ……」
アレンの部屋との通信を切った。
しかし、一体何だったのだろう? アレンの質問といったら! 思ったより幼稚な問題ではなかった。彼は技術者志望の学生だからそれなりに高度なのかもしれないけれど、あの計算といい、用いた用語といい、何かの研究、開発……。
とにかく、実現した暁には彼の夢を披露してくれるそうだから、それを待とう。 そう長くなければいいけど。
ユーサはロッドが操縦室で黙祷しているのに気付いた。
たぶん、客の安全を祈っているのだ神に。
彼はそういう男だ。
それにしても……とユーサは思った。
神とは何だろう?
これまで自分は神を必要としていなかった。
悩みらしい悩みがなかったためか?
しかし、今、迷いが生じ手いる。
今は、こう、神に祈りたい。
(どうか、人間らしく生きられますように)




