非常事態
ロッドの呼び出しを受けてエドがやって来た。
「まずい事になった……」
例の二人組の監視モニターを見るなり、エドもすぐに事態を把握した。
二人の間に緊迫したムードが漂う。
「どうする?」
ロッドにそう言われ、エドは頭を巡らせた。
「手動に切り替えられるか?」 とエド。
「……今のところ、部分的には」
「今のところ?」
「君も政府の役人なら知ってると思うが、 全機能を手動にきりかえるには……」
ロッドはその先を言わなかったが、エドにはわかった。
”マザーコンピュータの死”
それが必須条件だった。
マザーコンピュータの反乱はありえなかったが、その場合、強制処置としての、そして事故または寿命によるマザーコンピュータの死におけるストップによって、船は全機能手動可能となり、基地からの遠隔操作も受け入れる。
「ハッカー対策は?」
「してるはずだ。なぜ……」
ロッドの問いに、エドは答えられなかった。
マザーコンピュータの生命維持をストップさせることのできる権限を持っている政府は、その気になれば船のコンピュータに侵入できる。奴らはそのルートを使ったのだ。この船がRAIシップだと知らないにしても、政府がすべての船をコンピュータ管理しているのは承知なのだ。そして、政府のコンピュータは楽々と敵の侵入を受けた。めまいを起こしそうだった。
「ロッド、手動可能な部分は?」
「非常用ドアとボートだが……」
「 じゃ、まず乗客全員を動揺させないようにボートに誘導して。焦点はここに合わせて。次の中継地点の座標だ。この距離なら自動航行でも大丈夫だろう。軍の連中に迎えにやらせる」
「ああ」 そしてすぐに、ロッドはユーサに指示した。
「ユーサ、聞こえるか? 例の二人の部屋をシールドして、他の全室に放送を流してほしい。故障の点検により念のため、中継所で待機してもらうと。俺も客の誘導に今から向かう」
「わかったわ」
「ユーサ、僕の通信機と直接話ができるように設定してくれる? 番号は……」
「わかったわ、エド」
「それじゃ、僕の方は例の二人の部屋へ向かう。合図したら、ロックを解除してくれる?」
「ええ、気を付けて」
「……すまない」
「大丈夫よ、エド。 あなたなら、上手くやれるわ」
「……」 彼は悔しそうな表情を隠さなかった。
「さっ、急ぐんだ」 ロッドが促した。
ユーサの放送が流れ、乗客たちはザワザワと中央船室に集まって来た。
その中にはアレンの姿もあった。
「今から順番にボートに乗って頂きます」
ロッドは全乗客をボートの数だけ割り振って、乗務員たちに座標プレートを渡し指示した。
「予定時刻に遅れちゃうじゃないの」
「そちらのミスならタダにしてもらいたいわね!」
乗客たちはブツブツ文句を言いながらも、特に混乱はなく、次々とボートに移乗していった。
「ロッド叔父さん!」
「アレン! お前何してるんだ。 早くボートに移れ!」
「どうしたの……。ただの点検でしょ?」
「いいから乗るんだ!」
「……わかったよ」
*
「エド!」
エドの通信機にユーサの声が入った。
「どうした?」
「ドアが爆破された!」
「何……!? 」
エドは銃に弾を込めながら、その部屋へ走った。
「……!!……」
だが、部屋は両方ともドアが爆破され、中には誰もいなかった。
「男の方が爆破チップを持ってたらしくて……。女性を連れて逃げたわ」
「今、どこにいる?」
「2階フロアよ。でも、そのフロア全部の視聴覚を壊されたから正確な場所はわからないわ」
「そうか……」