動き
「ロッド。 ロッド起きて」
仮眠をとっていたロッドはユーサの声に目を覚ました。
「どうした。何かあったのか?」
言う間に、彼は服を着替えていた。
「例の二人が動き出したの。 男の方は今、中央船室をウロついてるわ。女性の方も今、部屋を出たところ……。ねぇ、やっぱりこの女の人もスパイの仲間なのかしら?」
「さぁ、まだわからないな。とにかく様子を見てみよう。ユーサ、二人の様子をモニターにだせるか」
「ええ……。待って」
ロッドの部屋、つまり船長室にある何台もの画面の二つに、二人の人影が現れた。
「女性の方も中央船室に向かっているみたい」
「ユーサ、このことはエドワードに知らせてあるのか」
「エドに? いいえ、まだよ。あなたに先に知らせようと思って。エドに知らせる?」
「ああ」
*
エドワード=ル=ガイアはただちにロッドの船室にやってきた。
「奴らが動きだしたって?」
「まだ、はっきりしてない。今、様子を見ているところだ」
エドワードはモニターをくい入るように見つめた。
「ユーサ。いざという時は、すべての部屋をロックしてくれないか? 人々の安全のために」
エドの言葉に急に彼女は緊張した。
彼が銃に弾を込めだした。
ロッドはそれを見て不機嫌になった。
「船内では事を荒立てるな」
「わかっている。そのつもりはない。ただ用心のためだ」
「情報の一つや二つで殺し合いをするのか」
「誰も銃撃戦になるとは言ってないだろ」
ロッドはユーサに聞こえないようにエドワードの首根っこをつかまえ、耳元でささやいた。
「お前はユーサを怖がらせているんだぞ。ただの用心なら彼女を脅えさせないように見えない所でやれ」
「……」
ちょうどその時、中央船室では二人の男女が出会っていた。
「ユーサ。音声をONにしてくれるかい?」
「ええ」
と言いつつも、本当はこんな私的な場面を盗聴するのはいけないのだ。
もし二人が逢引をしていたのであったらと思われると、RAIシップとしてすごく恥ずかしいことになる。
しかし、二人の会話は恋する男女のそれとは違っていた。
「どうやら、敵に感づかれたらしい。この船に同乗しているかもしれない」
「本当なの、ナイン?」
女の方が男の暗号名を口にした。
「本部に連絡をとろうと思ったが、妨害されてるんだ」
「そう……。 だから、ここへ呼び出したのね。部屋に盗聴機が?」
「いや、まだ調べてないが、念のためにね」
「これからどうするの?」
「君の力を借りようと思う。シックス」
「……わかったわ」
二人はそれだけ言うと、すぐに闇の中に消え、別々のルートを通って部屋に戻っていった。
何かが始まろうとしていた。