RAI
ロッドは自室に戻った後も眠れずにいた。
「あなたはどうしたいの?」
実は、彼はユーサが乗客とした会話を聞いていた。また彼女がややこしい問題に巻き込まれるのではないかとの心配からだったが、実際、彼にはあんな受け答えはできなかっただろう。
それにしても、ロッドはかつて今まで、RAIシップがあんな風に自分の考えを人に話すのを聞いたことがなかった。
いくら初心者とはいえ、あんなに親しげに乗客と話をして……。
しかし、それについては、ロッドは苦笑するのみだった。
それより、ロッドは彼女の考え方に注目した。
彼はパイロットの養成時代、RAIについてもいろいろ学んだ。
その歴史、心理面についてもだ。
彼はとりわけ、ある理由があって、RAIの心理について学びたがった。
RAIが社会的に認知されるまでの過程、それは社会常識が根底から変えられる出来事だった。
RAIは始めから、今のような社会的地位を得ていたわけではなかった。
さまざまな倫理的、社会的問題があった。
「神を冒涜する行為だ」
また、人々の心理的な拒絶も凄まじいものがあった。
今までの常識では受け入れがたいものだったのだ。
果たして人はそうまでして生きなければならないのか。
機械の中に記憶を閉じ込められ、それで幸せになれるのか。
そうして、RAIの育成には人の本当の幸せとは何なのか、生きるとは、という根源的な問いが含まれることになった。
RAIが健やかに成長していくには、その問題をクリアしなければならなかった。
RAIにも、生きる希望、喜びをもたせるには……。
当然、今までの社会常識を変える必要があった。
それは学校教育から始まった。
子供たちは素直にRAIを受け入れた。
やがて、制度が整い、RAIに輝かしい地位が与えられ、人々に広く受け入れられていった。
受け入れられ、必要とされること。
そして、RAIの方も、幸せについての定義を学ばねばならなかった。
それも、ある特定な者にだけ有効なものではなく、もっと普遍的な……。
肉体を持たなくても、自信を持って前向きに生きていける……。
そういう教えをRAIの養成校でしてくれることを知った時、ロッドはショックを受けた。
「あなたは、どうしたいの?」
ユーサの言葉はまるで自分に向かって言われたかのように感じた。
「幸せか……」
彼は虚空を見つめた。
(幸せにしたかった……)