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「まあ、ツインテール……」
ツインテールは十歳以前の幼い少女達に好まれるヘアスタイルで、さすがにこの学園内では見かけたことはない。
実際にやったら、きっと悪目立ちするに違いない。
でも、と私はフローリア様の姿を改めてじっくり眺めてみる。
うす桃色の髪とペリドットのような明るい若草色の瞳、童顔でとても愛らしい顔立ちのフローリア様がツインテールにしたら、まるで花の妖精のように見えるかもしれない。
「うん、悪く無いかもしれません。きっと可愛らしいに違いないわ」
微笑むと、フローリア様は恥ずかしそうにぷっと頬をふくらませた。
「もう、アメリア様ったら。からかわないでください」
「本気よ。なんでしたら、試してみます?」
侍女のエリスを呼ぼうとしたら、フローリア様に慌てて止められた。
「試さなくてもいいです。それより今日は、アメリア様に渡したいものがあるんです」
これです、と手渡されたのはビロード貼りの小箱だった。
蓋を開くと、中にはブレスレットが入っている。
「なんと見事な……」
蔓草を模しているのだろう。繊細な細工を施されたブレスレットには、カボッション・カットのつるんと丸い色とりどりの小粒の宝石が、木の実のようにいくつも配置されている。
繊細で実に美しいブレスレットだ。
「アルフレード様が紹介してくれた細工師の方に頼んだんです。一緒に学園で過ごした記念になればと思って。私がデザインしたんですよ」
「まあ、フローリア様が……。ああ、ではこの木の実を模した宝石の色にも意味があるんですね」
サファイアとペリドット、そしてアメジスト。
それぞれアルフレード様とフローリア様、そして私の瞳の色と同じだ。
「あら、私達の瞳の色だと思ったけど、ルビーも混じってるから違うのかしら?」
「いいえ、正解です。それはオズヴァルド様の瞳の色なんです」
「まあ、オズヴァルド様の……」
オズヴァルド様は、隣国キールハラルの第三王子で、我が国に一年間だけ留学してきているお方だ。
キールハラルは南方に位置し、国土は広大だがその大半が険しい山岳地帯と砂漠で人の住める土地は少ない。ゆえに鉱山から採掘される宝石類を使った細工物や香辛料等を主な産業とし、他国との交易で国を富ませることに成功している。
第三王子であるオズヴァルド様は、いずれは他国との交易の要になることを期待されているらしい。短期間とはいえ我が国に留学してきたのも、いずれ国の中枢に配置されることになる貴族の子女との顔つなぎの為だろうと目されていた。
そのオズヴァルド様が、フローリア様がアルフレード様と一緒に学園のカフェでこのブレスレットのデザインをしていたときにたまたま通りかかり、自分も混ぜろとねじ込んできたのだとか……。
「オズヴァルド様らしいですね」
キールハラルの麗しの末っ子王子。
白銀の髪とルビーのような赤い瞳、そして南国特有の艶やかな褐色の肌。
オズヴァルド様は、南国の明るい太陽のように朗らかで眩しいお方だ。
「そのせいで、ブレスレットを一点多く造ることになったんです。卒業までに間に合わせる為に、細工師には少し無理をさせてしまいました」
男性向けのものは、これよりしっかりとした幅を持たせてあるらしい。
強度にも気を使った作りになっているから、安心して普段使いして欲しいとフローリア様が言う。
「ありがとうございます。……宝物にしますね」
ああ、嬉しい。
喜びに胸が熱くなる。
今日このタイミングで、フローリア様から直接受け取れたことが本当に嬉しかった。
明日の今頃には、私はもうここにはいない。きっと人伝に受け取ることになっていただろうから。
「つけてくださいます?」
私はフローリア様に頼んで、ブレスレットを手首に巻いてもらった。
そのまま光にかざして、キラキラと輝くブレスレットを眩しく眺める。
この先、私は彼らから離れて領地に戻ることになる。
婚約内定者だった私の存在が遠い過去になるまで、王都に戻ってくることはない。
サファイアにペリドット、そしてルビー。
色とりどりの宝石を眺めては、彼らと過ごした眩しい日々を懐かしく思い出すに違いない。
きっと、この先、懐かしく何度でも……。