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悪役令嬢とは気づかずに婚約破棄しそびれました。  作者: 黒田ちか(クロッチカ)
第二章

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 この地を王家より賜ったのは、初代国王の友人だった我が家の始祖だ。


 建国の際、初代国王は共に戦った忠実なる臣下達に望む報償を惜しげも無く与えたと言われている。

 その時、我が始祖は、強固な地位を求めたのだそうだ。


――我は数多の犠牲を経て築き上げたこの国と民とを守る為、この国を内側より支える強固たる支柱となることを望む。


 貴族同士の無駄な争いで国が揺らがぬよう正しい裁定を下し、他国の陰謀に内側から食い荒らされぬよう監視を怠らず、愚王が立った際には民を守る壁ともなる。


 そう宣言した始祖に、初代国王は法の番人たる地位とその手足となる実働部隊である暗部を与えた。

 そして、真に王家の愚を諫める壁となる力を得られるようにと、この豊かなローダンデール領を与えてくださったのだ。


 以来、我が家は始祖の高潔な志を引き継ぐ為にも、この豊かな地を大切に守り続けている。

 王家に寄り添いながらも隷属せず、派閥を作りたがる貴族達と一定の距離を保ち続けるには、やはり信念だけではなく財力も必要なのだ。


『初代国王とやらは、ローダンデールの始祖を随分と信用していたのだな』

(始祖の言葉を、ただ面白がっただけのような気もするけど)


 我が始祖は、非常に真面目で頑固な人物だったらしい。

 有能ではあるが、その頑固な言動には滑稽さも含んでいたようで、初代国王が始祖のそんな言動をよく面白がっていたという逸話も残っている。


『頑固で融通が利かないところは、子孫にも少なからず引き継がれているようだ』


 ()()()が心の中でふふふと笑う。

 それをなんだかくすぐったく感じながら、ゆうるりと視線を巡らせて故郷の風景を眺めていると、ふと、()()()の緊張が伝わってきた。

 

(どうかした?)

『いや……。大丈夫だ。向こうに反射光が見えたから敵かと思ったのだが違ったようだ。どうやらアメリアの護衛達がこっそり付いてきているらしいな』

(護衛達が? そんな話、聞いてないけど……)


 今までこの山に野営に来るときに護衛が同行したことはなかった。

 となるとこれは、王都でのトラブルの影響だろうか?

 領地内にいれば安全だと思っていたのに……。


『心配するな。きっと万が一を考えてのことだろう。用心し過ぎることはないからな。それに、あの脳筋従兄がいる限りアメリアに危険が及ぶとは思えない』

(そうね。ダニエル様は本当にお強いから)


 そう、騎士としての力は文句のつけようがない。たぶん、国内でも五指に入る強さだろうと言われているぐらいだ。

 ただ自分が強すぎるせいで、一般人の体力をきちんと把握してくれないのには困らされるが……。


『護衛達はこっそりついてきているつもりのようだから、このまま気づかなかったことにしておくといい』


 護衛として付いてくるのを内緒にしていたのは、私がなんの心配もなく野営を楽しめるようにとの気遣いだろうからと、()()()が言う。

 そうするわと、私は心の中で頷いた。



 脳筋ダニエルが急かしたせいで昼休憩は思ったよりも短くなってしまった。

 そのお陰……とはいいたくないが、その分、目的地の放牧場への到着は予定よりも早かった。


「よし! じゃあ、さっそく天幕を張るぞ!」

「疲れただろう? 女の子達はしばらく休んでいていいからね」


 ダニエルが宣言して、トロンがフォローする。

 いつものやり取りの後に、男性陣はさっそく二張りの天幕の準備をはじめた。

 子供の頃からこの放牧場で野営を何度も繰り返してきたので、天幕用の杭は既に打ってあって、作業はテキパキと進んでいく。


「では、私は家畜除けを下げてきますね」


 私を除いた女性陣は息を切らせてそれを眺めていたが、一番最初に復活したエリスがすっくと立ち上がった。


「私も手伝うわ」


 ずっとガラー山羊の背の上でのんびり揺られていただけなので、私は全然疲れていない。さすがにのんびり座っているのが申し訳ないような気になって立ち上がった。


――野営では身分の上下は関係ない。みんな平等に働け。


 きっと脳筋ダニエルのそんな教えが、身に染みついてしまっているのだ。なんだかちょっと悔しいのは何故だろう。


 天幕を張った周囲を大きく取り囲むように、天幕用とは別にポツポツと杭が打ってある。

 エリスが、それぞれの杭を繋ぐようにロープを張っていく。私はその張られたロープの所々に、鱗でこしらえた鳴り物をぶら下げていった。


 シャランシャランと涼やかな音を立てるこの鳴り物は、水晶湖の深部に棲む巨大魚の鱗を薄く削り出して造られたものだ。

 光に当たってキラキラと七色に輝き音も涼やかなので、夏になるとあちこちの家の軒先によく飾られている。

 不思議なことに山の家畜達はこの音が苦手らしい。だから、こうしてぶら下げて置けば、野営の最中、人懐こい羊たちにもみくちゃにされずに済むというわけだ。


(護衛達、この鳴り物持ってきたかしら?)


 私の護衛達は、王都育ちの者が多い。

 私達にとっては常識でも、彼らは知らないかもしれない。


『心配することはないだろう。羊に群がられても死にはしない。案外、夜は暖かくて良いかもしれないぞ』

(それは……ちょっと面白そうかも……)


 羊たちに群がられて困惑する護衛隊長の姿を想像して、私はひとり笑った。

次回こそ、領地グルメを……。

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