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 お父様が私の為に暗部を動かすだなんてこと、本当にあるんだろうか?

 私情絡みでローダンデールの当主が暗部を動かすなど、有ってはいけないことなのではないか?

 私がそう指摘すると、フォスターは困ったような顔で微笑んだ。


「もちろん、ルコント殿単独の企みだったら暗部は動かさず、侯爵家の護衛兵を動かしたでしょう。ですが、今回の件の裏には帝国がいる。なんの迷いもなく自らの持つ力の全てを娘の為に使うことができると、旦那さまは意気盛んになっておられますよ」

「……そう」


 確かに、帝国絡みならば有り得るのか。

 でも、お父様が意気盛んだなんて、なにかもの凄い違和感がある。


「アメリア様には、帝国のネズミどもを一掃するまでは、危険が及ばない領地で過ごすようにとのことです」

「え? 領地でって……。事態が収まったら、王都に戻ってもいいの?」

「はい。そのように伺っておりますが」


 それは明らかに変だ。

 私は思わず、背後に控えていたエリスに振り返った。


「ねえ、エリス。私、婚約内定者の地位を失ったら、領地に蟄居するようにとお父様から言われたと思うのだけど。貴方もその場に居て、聞いたわよね?」

「確かに聞きました」

「どういうことかしら」

「そのお話をなされたのは、学園に入学直後のことでした。時が経って、事情が変わられたのでは?」


 なんにせよ喜ばしいことですと、エリスが珍しく嬉しそうに微笑む。

 それに微笑み返しながらも、私はあまり嬉しいとは思えなかった。


 事態が収まって王都に戻ったとしても、そこにはもうオズヴァルド様はいらっしゃらない。

 既にキールハラルにお帰りになられた後だろうから……。


『……王都に戻らないつもりか?』

(そうね。戻る意味もないし……。それにあのふたりのお邪魔になってはいけないから……)


 卒業式の舞踏会かアルフレード様の立太子の儀かのどちらかで、フローリア様との婚約も発表される筈。アルフレード様の婚約内定者だった私が王都に戻っては、ふたりの幸せに影を落としかねない。王都に戻るとしても、あまり人目につかないようこっそり一時滞在する程度になるだろう。

 とにもかくにも、命じられて領地に蟄居するのと、自らの意志で領地に留まるのとでは気持ちの有り様が違う。

 枷がひとつ外れたような気がして、少し気が楽になった。


「落ち着いたら一度戻りましょう。なにも言わずに領地に戻ってしまったから、きっとダージルも拗ねているでしょうし」

「是非そのように。大変その……ダージル様はご機嫌斜めで、旦那さまにもお怒りのようで……。屋敷の皆が困っておりました」

「やっぱり。後でダージルに手紙を書くわね」

「よろしくお願いします」 


 弟のダージルはまだ子供だからか、以前の私のようにお父様の愛情に懐疑的だ。

 今回の件も、きっとお父様が事態を早期に収拾する為に、手っ取り早く私を領地に押し込めたのだとでも思っているのだろう。誤解は早めに解いてあげるに限る。


「それと、ルコント殿の件ですが。アメリア様と結婚のお約束をしたと言うお話は、先方の勘違いだったということで収めることになりました」

「ちょっと待って。それはどういうこと? 敵は一掃するのではなかったの?」

「一掃するのは帝国のスパイです」


 今回の件は、私が事前に察知して逃げたことで直接の戦闘は避けられた。

 事件は未然に防がれ、なにも起きなかったのだ。

 だから、ルコントを罰することもできないのだとフォスターが言う。


「でも、私の護衛は捕まって拷問されたのでしょう?」

「はい。ですが、拷問したのは帝国のスパイです。ルコント殿ではない。ルコント殿は、自分が帝国に操られていることにすら気づいておられないのです」


 そしてルコントと帝国が繋がっているという証拠もない。証拠もなしに、イスナール侯爵家の嫡男を罪に問うことはできない。


「ですが、今回の件は内々にイスナール侯爵家に伝えることになっています。いずれルコント殿は、なんらかの理由をつけられて跡継ぎの座から落とされることでしょう。アメリア様に危険を及ぼすことはできなくなります」


 ご安心くださいと言われたが、素直には喜べなかった。

 ルコントが事を起こさなければ、オズヴァルド様を王都の屋敷にお招きして、最後の時間をゆっくり過ごすことが出来たはずなのにと思うと、どうしても悔しくてたまらない。


『そうやって悔しがれるのは、事態が無事に収拾したからだ』

(……そうね。無事だったから、つい欲張ってしまうのね)


 もしも途中で敵の手に落ちていたら無事では済まなかった。

 女性としての尊厳だけではなく、命すら失っていたかもしれないのだから……。

 

「わかったわ。フォスター、詳しい報告をありがとう。――それと、拷問を受けていたという護衛はどうなりましたか?」


 最後に、気になっていたことを護衛隊長に聞いた。


「残念ながら利き腕を壊されて、護衛としての復帰は無理そうですな」


 護衛隊長は、僅かに眉をひそめて悔しげに言った。


「そう。充分に報いてあげてね」

「はい、もちろん。怪我が治ったら、本人の意見を聞いて仕事を斡旋する予定です」

「王都の侯爵家にもこの領地にも、仕事ならいくらでもありますから、そこは私共にお任せください」

「お願いね」


 護衛隊長の話では、王都から私に向けた追っ手が出発した形跡はなかったそうだ。

 捕まった護衛は、助け出されるまでに私の行方を隠し通してくれたのだろう。

 私は、私が心から感謝していることを伝えてくれるよう、改めて護衛隊長に頼んだ。

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