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「私が罰せられた後、アルフレード様とフローリア様は結ばれるのですか?」
「シナリオがいくつかあって、君が修道院送りになった場合は正妃として、愚者の塔送りの場合は側妃として迎え入れることになるらしいね」
「側妃ですか……。アルフレード様らしくありませんね」
「フローリアの夢の中の私は、ちょっとおつむが弱いらしい」
微笑みながらそう言ったアルフレード様が、ゆったりと紅茶を楽しむ。
夢の中の話とはいえ、おつむの弱い不実な男扱いされたことを不愉快に思うどころか、どうやら楽しんでいるようだ。
「夢の中のフローリア様も、現実とは少し違うようですし」
誠実で心優しい私のお友達、伯爵令嬢であるフローリア様は、王族と侯爵位以上の貴族のみに許されている一夫多妻制には否定的だ。
複数の女性を同時に愛することなど出来るはずがない。愛情が片寄れば、ないがしろにされたと不満も募る。未来の不幸の温床になりかねないと……。
「そうだね。なにしろ夢の中の彼女は、『乙女ゲーム』の『ヒロイン』だから。『乙女ゲーム』の中の私は、『ヒロイン』にとっては複数いる『攻略対象者』のひとりに過ぎないらしいよ」
「『攻略対象者』?」
「そう、『攻略対象者』。『ヒロイン』の恋の相手になる男性のことをそう呼ぶんだ。私を含めて、全部で七人いるそうだ」
「まあ、七人も」
「『ヒロイン』は学園生活を送りながら、七人の『攻略対象者』達と交流を深め、最終的にひとりを結婚相手として選ぶことになるそうだ」
学園生活の交流の中で育まれていくのは、お互いの恋情。つまり『ヒロイン』は、七人もの男性と恋愛を楽しむことになるらしい。
恋愛を通じてお互いを深く知り、卒業時に七人の中で一番自分と相性の良い相手を結婚相手として選ぶ為に……。
「それは……ちょっと多情過ぎませんか?」
「確かに」
七人の『攻略対象者』も実在の人達で、将来アルフレード様を支えることになる綺羅星の如き貴族家の子息達が名を連ねているらしい。
そして『攻略対象者』それぞれに『悪役令嬢』役の令嬢も配置されているのだとか。
さすがにフローリア様も、アルフレード様以外の『攻略対象者』の実名は明かさなかったそうだ。
「フローリアも、夢の中とはいえ不実な自分にうんざりしたと言っていたよ。愛する人は生涯にただひとりでいいのにと……」
「……フローリア様は、私が『悪役令嬢』でなくて良かったとおっしゃったのですよね?」
「うん、そうだね」
七人の『攻略対象者』の中で、私はアルフレード様の『悪役令嬢』役として配置されている。
つまり『乙女ゲーム』の場合とは異なり、フローリア様は一月後の卒業を待たず、今の段階でただひとりの人をすでに決めてしまったのだろう。
「では、決意なされたのですね?」
「うん、決めた。――フローリアを、我が生涯、ただひとりの妃とする」
アルフレード様が誇らしげにそう宣言する。
その瞬間、私は微かな胸の痛みを感じていた。